2019 Fiscal Year Annual Research Report
Satellite-based analysis of the Tsushima Warm Current: Determination of flow pattern and its fluctuation mechanism
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19J13178
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢部 いつか 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 日本海 / 対馬暖流 / 流路 / 海面高度データ / 渦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、人工衛星の海面高度データ(SSH: Sea Surface Height)およびSSHから算出した地衡流データを用いて対馬暖流の流路特定を中心とした研究を行った。この内容に基づき学会発表を行い、論文も投稿済である。 対馬暖流の流路の特定については、対馬暖流の流路を検出するための客観的な指標を定義した。具体的には、SSH上の平均流速を算出し、平均流速が極大となるSSHの等値線を流路とみなした。これらの流路を流路の起点や分布域に基づき、4つの分枝流に分類した。CC(Coastal Current)は対馬海峡の東水道を起源とし日本列島に沿う流れ、OSC(Offshore South Current)は西水道を起源とし日本列島沿いの陸棚縁に沿う流れ、西水道を起源とし朝鮮半島を北上する流れは離岸後、鬱陵島を迂回し南下するONC(Offshore North Current)と極前線に沿うSFC(Subpolar Front Current)に分けて抽出した。上記手法を用いて抽出した流路は、海洋観測の結果を用いて検証し、観測で捉えられたジェット構造の流軸と抽出した流路の位置が概ね一致することを確認した。 抽出した25年間の流路を用いて、日本海中部から東部の各流路の季節・経年変動を整理した。対馬暖流の流路に影響を与える要因の一つとして対馬海峡からの流入量が挙げられるが、ONCの平均流速は同海峡の西水道からの流入量の季節変動とよく一致した。なお、4つの分枝流の流路は、日本海西部(~132°E)においては明確に分かれるが、流下方向に位置する中部から東部(132°E~)においては複雑に入り乱れ、とくにONCは一年を通して蛇行流路を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、人工衛星の海面高度データを用いて対馬暖流の流路を特定した。対馬暖流の流路については入り口である日本海南西部の流路の分岐やその季節変化は豊富な観測データおよび数値実験より明らかとなっている。しかしながら、下流に位置する日本海中部や東部は観測データも乏しく各流路の分布やその変動は明確となっていない。本研究では、当該海域における流路とその季節変化および特定の海域における分枝流の合流が明らかにすることができた。本内容に基づき2回の学会発表(日本海洋学会2019年度秋季大会およびAGU Fall Meeting 2019)を行い、論文も作成し、投稿を行った。現在、査読を受けている途中である。海流の流路は、海洋物理学的な観点のみならず、魚の回遊や魚卵・稚仔魚移動や万が一の船舶事故等による油流出など、水産分野や環境分野とも強く結びつく基礎的な情報である。 また、今年度は3回の海洋観測に参加した。本航海にて水温、塩分、流向、流速等のデータを取得した。取得したデータは、抽出した流路の検証に用いるだけでなく、流路の蛇行に影響を与える渦の断面構造や渦内部の流速構造を把握することができた。これまで海面の情報に限定されていた解析を海洋内部に広げることが可能となった。これらの成果に基づく数値実験にも着手し始めており、研究はおおむね順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、SSHを用いて抽出した渦特定・追跡データからは、渦の分布数が多く渦活動エネルギーが高い複数の海域(鬱陵島周辺、大和海盆、佐渡島沖)が特定できた。海洋観測データを用いて渦構造の季節変化を調べたところ、渦構造は秋季に最も発達し、本季節におけるPM線を横切る流量は対馬海峡からの流量の約3倍となり、日本海内部の水塊の移動には対馬暖流のジェット構造だけでなく渦構造が大きな影響を持つことが明らかとなった。 次年度はこれらの渦の形成機構について、モデルを用いた数値実験を実施し、渦の発達要因を解明していきたい。対馬暖流の流路上には複雑な海岸線や海底地形存在し、対馬暖流のみならずこれらの地形が渦の影響に与える可能性が示唆される。そこで、これらの条件を変えた複数の仮想実験を行う予定である。 また、本年度の海洋観測で投入した合計12個の漂流ブイを用いて、渦の移動・変形等の長期変動について解析を進める計画である。渦内部に投入した7個の漂流ブイから、渦内部の流動構造やその時間変化を捉えることができる。対馬暖流の流路とは変動の時間スケールが異なるが気象擾乱に伴う流速の短期変動も捉えられており、これらに関する解析も実施する予定である。
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Research Products
(3 results)