2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J13259
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西澤 茉由 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ATP / アミロイド / 溶液NMR |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「ATPのアミロイド線維化阻害機構の解明」を目的としたものである。アミロイド線維化阻害機構を物理化学的に解明するためには、線維化前の天然構造、線維化時の中間体構造、最終生成物のアミロイド線維の3段階の構造情報の取得が不可欠となる。各状態の構造情報を取得するために、まず溶液NMRを用いて線維化前の天然状態の構造解析を行い、以下の3点の知見を得た。 (1)アミロイド線維化タンパク質とATPの相互作用解析:3種類のタンパク質を対象としてATP存在下における溶液NMRを測定し、タンパク質とATPの相互作用を定量化した。また、ATPの類似体である他のヌクレオチドによるタンパク質への相互作用の影響の差異を解析した。 (2)緩和測定および水素交換測定によるタンパク質の揺らぎ構造の特定:一般に、線維化には天然状態の構造安定性や構造揺らぎの変化が重要な因子である。天然構造の不安定化部位を特定するために、R2緩和分散法をはじめとするNMR緩和測定および水素交換測定を行った。その結果、ATP添加前後の構造変化の速度定数を定量化しタンパク質の揺らぎ構造の特定に成功した。 (3)新規NMR測定法の開発:本研究に派生して、新たなNMR測定法を開発した。生体分子における遅い交換過程、交換速度の決定とマイナーピークの帰属を研究するためには通常、ZZ-exchange法が広く用いられている。しかし、従来の手法では交換交差ピークが重なったり、交換peakのpopulationが偏ったりした場合、速度論的解析が困難となる。このような条件下でも遅いタイムスケールの交換を解析するために、新規測定法を開発し、本研究内容は学会誌等へ発表した(Nishizawa M., et al 2020)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年は溶液NMR法を用いた線維化前の天然状態の構造解析が主であり、計画していた中間体構造へのATPの影響を調べるRheo-NMR法の測定まで至らなかった。 しかしながら、溶液NMRを用いた線維化前の天然状態の構造解析では、他のヌクレオチドへの影響の他、生体分子における遅い交換過程及び交換速度の決定とマイナーピークの帰属のための新規測定法の開発など、ATPによる天然状態のタンパク質への影響に対して予想以上の結果を示した。また、新規測定法の開発については論文で報告を行なっており、この手法を用いて得られた、タンパク質のマイナーピークの帰属情報を元に更なる解析を深めることが可能となった。 以上の点を踏まえ、やや遅れていると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画書で示した研究目標に大きな変更はないため、目標を順に達成するよう試みる。二年目の研究では剪断流中の構造情報をリアルタイムに得ることができるRheo-NMRを用いて、線維化時の中間体構造の構造解析から始める。その後、生成した線維を固体NMR測定に供することで原子レベルの立体構造を明らかにする。最後に、溶液NMR、Rheo-NMR、固体NMRの3種類のNMR測定結果をもとに、アミロイド線維化タンパク質の天然構造から線維にかけた部位特異的な変化を明らかにし、ATPの線維化阻害機構を解明する。一方で、初年度における溶液NMRを用いた研究成果を順次まとめていき、論文等で報告できるよう準備を進める。
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