2019 Fiscal Year Annual Research Report
代謝物に着目した大腸菌酸耐性の発現制御機構の解明とその感染予防法への応用
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19J13348
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
神田 健 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 大腸菌 / 酸耐性 / 食中毒 / Gadシステム / インドール / Tryptophanase / RNase E / TolC |
Outline of Annual Research Achievements |
病原性大腸菌が有するGadシステムは強力な胃酸耐性機構であり、人を含む哺乳動物への感染に寄与している。Gadシステムの発現は酸性環境への暴露により誘引されるが、その分子メカニズムは解明されていない。これまでの研究で、トリプトファンの分解産物であるインドールがGadシステムの発現を抑制するシグナル分子である可能性、およびその生産酵素をコードするtnaA mRNAが酸性条件下で急激に減少することを見出してきた。本研究では、インドールの生産制御メカニズムを解析することで、Gadシステム発現制御系の解明を目指した。 2019年度は、細胞内に存在するインドール量を定量し、そのGadシステムの発現に対する影響を評価した。中性条件で培養した大腸菌野生株を酸性条件(pH 5.5)に曝したところ、30分後に細胞内インドール濃度は約1/2.6に減少した。一方、細胞内インドールの排出に寄与するTolC外膜チャネルの欠損株では、細胞内インドール濃度は野生株の約1.7倍と高いレベルにあり、Gad発現は顕著に低下していた。tolC欠損株にtnaA欠損を導入すると細胞内インドールは検出されなくなり、Gad発現が回復した。また野生株の培養液にインドールを添加するとGad発現が抑制された。以上より、インドールがGadシステムの発現を抑制するシグナル分子であることを示した。さらにリファンピシンチェイス実験によってtnaA mRNAの安定性を評価したところ、中性条件に比べて酸性条件下ではより速くtnaA mRNAが減少していることがわかった。ここで主要なエンド型RNA分解酵素であるRNase Eに変異を導入したところ、その分解が顕著に抑制された。以上より、酸性条件下ではRNase Eを介した分解が活性化することでtnaA mRNAが急激に減少していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、細胞内インドール濃度の定量化に成功し、Gadシステムの発現に対する影響を評価できた。また中性条件、酸性条件下におけるtnaA mRNAの安定性等の解析も実施できたことから、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
インドールがGadシステムの発現を抑制するメカニズムを解明するため、インドールシグナルを伝達する可能性を見出している転写制御因子(GadW)とインドールとの相互作用を検証する。ゲルシフトアッセイを行い、Hisタグ精製したGadWとその既知DNA結合領域との相互作用がインドールの有無によって変化するか解析する。インドールとの相互作用が検出されなかった場合、インドールをカラムに結合してアフィニティークロマトグラフィーを実施することで大腸菌細胞抽出液の中から結合タンパク質を網羅的に探索する。さらに病原性大腸菌に対する感染予防策構築の観点から、Gadシステムの発現を効率的に抑制できるトリプトファン含有ペプチドを探索する。大腸菌細胞に強力に取り込まれるペプチドをスクリーニングし、それらのGad発現抑制活性をトリプトファンやインドールと比較し、評価する。
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Research Products
(2 results)