2019 Fiscal Year Annual Research Report
地球温暖化への適応策創出を見据えた梅雨豪雨の将来変化予測と未経験災害の推定
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19J13471
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小坂田 ゆかり 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 温暖化影響評価 / 梅雨 / 線状対流系 / 長時間広域豪雨 / 気候変動 / 防災 |
Outline of Annual Research Achievements |
I.梅雨豪雨の発生頻度と雨量の確率分布推定 2018年7月豪雨のような長時間・広域豪雨,2017年九州北部豪雨のような局所的な線状対流系という2つのタイプの梅雨豪雨に対して,①統計手法を用いた少ないサンプルデータからの確率分布推定,②過去の豪雨データや力学的ダウンスケールデータを用いた多サンプルデータからの直接的確率分布推定,③低解像度データから抽出可能な豪雨と関連の高い大気場指標を用いた確率分布推定,の3点から確率分布の推定に取り組んでいる.その中で,長時間・広域豪雨の主な発生要因は大規模な力学的循環場が支配的であるため,将来気候でも発生頻度自体は増加傾向にない一方,平成30年7月豪雨発生時の水蒸気流入量は,現在気候ではほぼ起こり得ない最大レベルの多さだったことを明らかにした. II.梅雨豪雨の未経験シナリオの推定 線状対流系の擬似温暖化手法に偏波レーダから得られる観測情報を導入することで,擬似温暖化条件下におけるより確からしい線状対流系を推定する手法の構築に着手した.従来の擬似温暖化手法は気温や水蒸気量のような環境場の変数に対して温暖化差分を与えるものであったが,それに加えて,偏波レーダ情報から得られる雲物理量(雨水・雲氷・霰混合比,等)に関しても温暖化差分を推定して将来気候下における擬似観測値を作成した.そしてデータ同化手法を用いて擬似観測値を擬似温暖化実験に同化することで,擬似温暖化条件下においてもより確からしい線状対流系を発生させることを試みた.その結果,擬似温暖化実験において雲物理量を同化しなかった場合よりも局所的な線状降水域を発生させることに成功した. 今後の課題は,I.梅雨豪雨の将来変化として,定量的な値を示すこと,II.新しい擬似温暖化手法をより精緻化し,普遍的な手法として構築すること,である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
線状降水帯の温暖化予測研究に気象レーダ観測情報を用いるという,斬新で独創的なアイデアを提案した.そもそも,これまで気象レーダ観測情報は豪雨のリアルタイム予測等に用いられてきたもので,気候変動研究においてはほとんど用いられてこなかった.また,線状降水帯は時空間スケールが小さく温暖化予測が困難な現象である.そこへ,今年度提案した,気候学(温暖化予測)と気象学(リアルタイム予測)を融合させたこのアイデアは,線状降水帯の温暖化予測研究に新しい手法を確立し,定量的にもより精度の高い温暖化予測を行うことができる可能性を秘めている.具体的には,温暖化予測のための手法の1つである擬似温暖化手法に,リアルタイム予測等で用いられるデータ同化手法を導入するアプローチである.これにより,温暖化した将来気候でどのくらいの強度・雨量の線状降水帯が発生し得るかという最悪シナリオを定量的に示すことが期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の大きな課題は,I.梅雨豪雨の将来変化として,定量的な値を示すこと,II.新しい擬似温暖化手法をより精緻化し,普遍的な手法として構築すること,である.これらを行うことで,III.梅雨豪雨による未経験災害推定が可能になる.最終的には,梅雨豪雨に関する一連の温暖化研究(I及びII)を体系化し,気候変動を踏まえた防災対策に有用な情報を創出していくことを目指す.
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