2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J13544
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
埋田 真樹 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | スピン流 / 熱電効果 / 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の主な研究成果としては、1)薄膜構造の極低温用温度計の作製ならびに2)スピンホール効果を用いた強磁性共鳴の緩和変調実験の構築である。 1について、本研究の目標であるスピン熱電効果の検出には、室温では本研究室においてクロメルアルメル熱電対を用いた報告が既にされている。対象を超伝導体にした場合、極低温用の抵抗温度計の作製と校正が必要になるため、非晶質半導体の酸化ルテニウムを選択し、スパッタで成膜した薄膜の抵抗変化を温度依存性として調べた。抵抗は先行研究同様、低温で急激に上昇する振る舞いを見せたが、スピンペルチェ効果の検出に必要な信号強度には到達しなかったことから、現在は超伝導試料を細線構造にして電流密度を増やす、または測定構造を従来の予定したものから変更し、市販の極低温用熱電対を購入して計測に取り組む等の工夫をしながら引き続きスパッタの最適条件の探索を続けている。 2については本年度の達成状況により低温でのスピン熱電効果の測定は非常に難しいことが判明したので、研究対象をスピン流-電流変換に基づいたスピン三重項対由来のスピン流という大枠に拡張し、超伝導体/強磁性体二層構造を使用したスピン流の検出手法の構築に取り組んだ。結果、交流電流源とロックイン検出法を組み合わせた新規の検出手法を提案、測定系を構築することで室温下のテストサンプルにおいて微小印加電流で信号を検出することに成功した。臨界電流値を踏まえると超伝導体への応用が見込まれる。さらに類似手法の解析手法を応用した新たな解析手法を提案し、エルステッド磁場由来の信号とスピン流由来の信号の分離、並びに電流-スピン流変換時の金属中のスピンホール角の導出に成功、先行研究と一致する値を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題の超伝導体におけるスピン熱電効果の検出の達成には極低温用温度計の作製と校正が必要となるが、測定に用いることができるだけの検出性能に未だ至っておらず、条件出しを続けている。その後、新たなアプローチとして超伝導体中のスピン流の検出まで視野を広げ、超伝導の抱えるゼロ抵抗という測定上の問題を解決するため、マイクロ波による強磁性共鳴を用いた研究に着手した。室温下のテストサンプルにおいては概ね先行研究と一致する成果が得られている。当初予定した研究計画には沿えていないものの、「超伝導体中の基底状態が運ぶ無散逸スピン流の検出」、という大枠での研究課題に対して、測定系の構築さらに共同研究者を介した試料の確保の二つが達成されたため「やや遅れている」という自己評価に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度前期は昨年度に引き続き素子構造の理解及び素子機能の向上に務める。また、前年度で確立した試料作製技術を生かし、磁性体をスパッタ(ターゲットは経費購入)した人工超格子の作製を引き続き行う。加えて、新たなスピンp波三重項を発現するモデル物質として最近報告された重金属常磁性体/超伝導体多層膜の作製についても、本研究室内でも比較的作製が容易なため同時に取り組む。この際の試料評価方法としては膜厚に電子対の発現が敏感であるため、X線測定と電気測定を中心に行う。これら試料を用いてスピンp波三重項スピン流を、熱流に伴う温度差として検出し、超伝導体中のスピンペルチェ効果を立証する。具体的には電流、磁場依存性といった系統測定を行うとともに、超格子中のスピン軌道相互作用を積層順の変化や元素の置換といった条件で人工的に操作し、構造由来のスピンペルチェ効果であることを対照実験と比較することで検証、確認する。さらに対照実験の一部として、当研究室で確立し、同構造での測定が可能な磁性体中の強磁性共鳴における、電流からのスピン流に応じた緩和変調実験も並行して行い、高周波実験におけるスピンp波三重項スピン流の検出にも取り組む。後期は実験結果を踏まえて理論的側面から現象論的に超伝導体中のスピンペルチェ効果を解釈できるようなモデル構築を理論専門家と協力しながら取り組み、超伝導体中の特異なスピン伝導の総合的な理解を達成、その成果を論文にまとめる予定である。
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Research Products
(4 results)