2019 Fiscal Year Annual Research Report
前弧海盆形成過程から読み解く,プレート沈み込み運動像
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19J13759
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
神谷 奈々 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 圧密特性 / 前弧海盆形成過程 / 過剰間隙水圧 / ひずみ軟化 |
Outline of Annual Research Achievements |
房総半島は,プレートの沈み込み運動に伴って発達し,半島は沈み込み帯特有の地質構造(付加体,隆起帯および前弧海盆)で構成されている.中でも,房総前弧海盆には,フィリピン海プレートの運動方向変遷に伴って形成されたとされる大規模地質境界(黒滝不整合)が分布しており,黒滝不整合形成前後の房総前弧海盆の形成過程を明らかにすることは,プレートの沈み込み運動解明につながると考えられる.また,房総前弧海盆に分布する堆積岩は,工学的には堆積軟岩に分類される.軟岩の物理的・力学的性質は土質と硬岩の間にあるため,軟岩は,岩石でありながら圧密試験による圧密降伏応力の算出が可能である. 平成31年度の目的は,房総半島前弧海盆から採取した泥岩を用いて圧密試験を実施し,房総前弧海盆の圧密特性を明らかにすることであった.これまでの予察的な研究により,房総前弧海盆では,大規模地質境界(黒滝不整合)の上下で,東西の圧密降伏応力の傾向が異なる可能性が指摘されていたが,今年度に実施した圧密試験においても,このことを支持する結果が得られた.西部では,黒滝不整合よりも下位で圧密降伏応力が大きくなっており,不整合を境に圧密降伏応力にギャップがある.一方東部では,圧密降伏応力が深度に伴って連続的に増加し,黒滝不整合上下での圧密降伏応力のギャップは見られなかった.このことから,西部では黒滝不整合形成時の削剥の影響が保存されているのに対し,東部では,不整合形成後の埋没過程でギャップが消失したと考えられる.すなわち,房総前弧海盆では,黒滝不整合形成後の埋没過程が東西で異なっていたことが本研究により明らかになった.また,房総前弧海盆東部においては,圧密降伏応力が最大上載圧よりも小さい領域が確認され,前弧海盆の形成過程において,過剰間隙水圧が発生していた可能性を示唆されたほか,圧密試験の一部供試体において,ひずみ軟化が確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
房総半島前弧海盆の形成過程解明を目的として,圧密試験を行った結果,房総前弧海盆の圧密特性から,東西の発達過程に違いが生じていたことが明らかとなり,房総前弧海盆の形成過程を考察するに至った.また,前弧海盆の形成過程において過剰間隙水圧が発生していた可能性が示唆されたほか,堆積軟岩の圧密試験において,ひずみ軟化現象が確認された. 泥質岩を用いた圧密試験を行った際,圧密曲線において,降伏直前に応力が急激に低下する現象が確認された.このように,ひずみの増大に伴って応力が増大しない,もしくは低下する現象は,ひずみ軟化現象と呼ばれ,地盤工学の諸問題で論じられる進行性破壊と密接に関連することが指摘されている.しかしながら,これまで圧密試験において認められた報告はなく,詳細も明らかになっていなかった.本研究では,圧密試験の前後で供試体のX線CT撮影を行い,内部構造の観察も行ったが,試料にき裂の形成は認められなかった.そのため本研究で確認されたひずみ軟化は,局所的な脆性破壊によるものとは考えにくく,泥質岩自体の骨格構造の軟化によるものと考えられる.ひずみ軟化現象は,軟岩の弾塑性構成式においても再現されているが,実際の岩石試料において圧密過程で実験的に確認されたひずみ軟化現象の報告はなく,本研究の成果が世界で初めてであり,岩石の変形挙動解明につながることが期待される.なお,本研究成果は,国際誌に投稿し,受理された. 以上から,本研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって,房総前弧海盆の圧密特性が明らかとなったことを受け,今後の研究においては,これらのデータを用いて,数値解析により前弧海盆の構造形成過程復元に取り組む.また,圧密過程におけるひずみ軟化現象についても,その発生機構解明に取り組む. 陸上地質断面図および地震波探査断面図と,圧密試験から得られた各層準の圧密曲線を用いた解析を実施し,房総半島前弧海盆全域の構造発達過程を考察する.得られた前弧海盆全体の形成過程と南部の付加体―被覆層システムの形成過程を比較し,プレート沈み込みに関連した前弧海盆の造構応答を抽出する.一方で,これまでの研究で明らかとなった房総前弧海盆東部の過剰間隙水圧発生領域に関して,側方分布を明らかにすることで,過剰間隙水圧の発生機構解明および前弧海盆形成過程との関連解明を目指す.最終的には,フィリピン海プレートの運動方向変化などの大きなテクトニックイベントも考慮し,プレート沈み込み運動の変化に対する前弧海盆の応答を評価したい.得られた形成過程と西南日本の前弧海盆に記録されている地質イベントの時間軸上での比較を行い,広域テクトニクスを考察する. また,ひずみ軟化現象については,その発生機構の詳細を明らかにするため,圧密過程における段階的な供試体観察を行う.観察には,マイクロX線CTとSEMを用いるほか,それらで捉えられなかった場合は,薄片観察なども取り入れる.ひずみ軟化発生時の亀裂の有無や粒子配列の様子を詳しく観察し,マイクロクラックの形成や粒子配列の発生等,ひずみ軟化と関連する事象を明らかにしたい. 得られた研究成果は国内・国際学会で知見を発表し,広く議論するとともに,論文にまとめ,査読付き国際学術誌に投稿する.
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