2019 Fiscal Year Annual Research Report
Dummett's Theory of Meaning and the Recent Development of Philosophical Analysis of Action -- Rationalization of Action and Understanding
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19J13854
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
三上 温湯 首都大学東京, 大学院人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 意味の理論 / Michael Dummett / 構成主義 / 言語哲学 / 論理学の哲学 / 直観主義論理 / 幾何学的論理 / 行為の哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ダメットの意味理論について、主に以下の二つの観点から研究を行った。 第一に、ダメット意味理論の歴史的・哲学的背景として、フレーゲ、ウィトゲンシュタインの哲学を検討した。とりわけ、フレーゲによる形式言語の構築に注目し、その仕事が、インフォーマルな数学の活動を、(典型的には定理の主張に証明・正当化を与える実践的能力の発揮として描きなおすものであったことを例を挙げて示した。これによって、ダメットの意味理論は、フレーゲのこの試みを言語活動一般に押し広げたものであると考えることができた。一方で、ウィトゲンシュタインも、言語習熟話者の理解に基づいた行為を主題とした哲学者でありながら、数学的正当化や検証に中心的役割を認めず、むしろそれらを一例として含む、適切な言語使用・適用能力を主題としている。(この相違は第二の拡張の論点のモティベーションの一部となっている)以上の点について科学基礎論学会で口頭発表を行い、現在論文を執筆中である。 第二に、ダメットの言うように、命題の証明・検証ができるということが、当該の命題の理解の規準だと考えるのは、厳しすぎる要求だということを指摘し、理解の規準の拡張を提案した。こうした拡張を許すことにより、習熟話者が営む諸行為を合理化する際に私たちが適用できる概念(意味)のレパートリーが豊富化され、それにより、初めて私たちは、習熟話者の多様な諸行為を広範に適切な仕方で解釈する(合理化する)ことが可能となる。私たちは日常的に、他者の(また私たち自身の)行為を、十分柔軟に、しかも的を射た仕方で記述する(特徴づける)ことができていると考えられるが、そのことの背景には、以上のような、「行為の合理化のために適用することのできる諸概念のレパートリーの豊富化」が含まれている。以上を踏まえ、意味理解の規準の拡張の必要性を示し、国際科学哲学・方法・論理会議で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ダメット意味理論の背景について、従来からフレーゲとウィトゲンシュタインはダメットに深く影響を与えたことがよく知られているが、具体的な問題の共有関係は未だ明らかではない。それどころか、この三者の言語に関する哲学的立場は難解で、現代においても議論の余地あるところである。このような状況の下、この三者の影響関係を明らかにしたことは、ダメットの意味理論の哲学的射程を理解する上でもちろん重要なことである。しかしそれだけにはとどまらず、ダメット意味理論という観点から、フレーゲ、ウィトゲンシュタインの哲学を、一定の言語活動に習熟した主体の振る舞いという共通の主題の下で理解することができた。 概念(意味)理解の規準の拡張については具体的に拡張を行うには至らなかったものの、拡張の必要性を導くための議論を用意し、発表を行った。さらに、現代の論理学における、構成的正当化概念の拡張の研究について調査を行い、以下の「今後の研究の推進方策」で挙げる、具体的に拡張を与える方策の候補に至ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を踏まえ、意味理解の規準を拡張するより具体的な方策を検討する。本研究が目指す構成的正当化概念のリベラリゼーションは、現代の数理論理学、情報科学の分野においては、一方で二値原理を受け入れ、量化子のネスティングを随意に許す古典述語論理に対しては、より構成的制限をかけ、計算論的観察・検証の概念に近づけようという試みがあり、他方伝統的直観主義のように、もっぱら有限的構成性の重視に留まるのではなく、無限選言のような一般化・拡張を行うといった研究がなされている。 次年度はこうした現代の研究を踏まえ、以下の二つの方向性から、理解の規準を拡張する具体的方途を探求する。 まずは、S.ヴィッカーズの幾何学的論理に焦点を当てる。この論理は、主体の情報の把握可能性の観点から、式の形(そこで用いられる結合子)を制限する一方で、ダメットの擁護する直観主義論理では受け入れられていない無限選言を許すものである。ダメットの理論では、式の形が理解可能性に及ぼす影響は考慮されていなかった。ヴィッカーズの理論を参考に、式の形に制限を与えるという新しい観点について吟味し、実はその観点から見ると、無限選言が理解可能内容となりうる。この点について、さらに具体的に研究を進める。 また別の拡張の方途として、可算無限個の前提を持つ推論規則である、Ω規則の導入を検討する。Ω規則は、自然数によって添え字付けられたあらゆる変項を考えることにより、個別事例を適切に揃えるというものであり、ダメットが批判した古典論理のような無限の捉え方とは本質的に異なるものである。そしてこのΩ規則の導入は、メタ言語で用いられている概念を対象言語のうちで理論化するというダメット意味理論の根本的課題の実現に必須と考えられる。以上の研究をさらに推し進め、科学基礎論学会のWSで発表予定である。
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