2019 Fiscal Year Annual Research Report
半導体ナノ細線と超伝導体接合試料における電子輸送特性
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19J13867
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 健人 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | マヨラナ粒子 / 超伝導体 / 半導体ナノ細線 / トポロジカル超伝導体 / 量子コンピューター |
Outline of Annual Research Achievements |
マヨラナ粒子はその非局所性、非可換統計性という特徴から将来のトポロジカル量子コンピューターへの応用が期待されている。その観測に向けて現在様々な実験舞台でアプローチがなされている。代表的な実験舞台が一次元伝導体の半導体ナノ細線と超伝導体接合試料に磁場を印加することにより実効的なトポロジカル超伝導体を作り出しその端にマヨラナ粒子を発現させるという手法である。しかし、このアプローチ方法には大きな欠点がある。それは超伝導体と磁場の相性の悪さである。磁場を印加することによって超伝導性が破壊されることから本来の利点であるトポロジカル保護(エラー耐性に繋がる)を失ってしまうという懸念がある。我々は一次元物質の半導体ナノ細線を二本並列に配置し超伝導体を接合することで磁場を使用しない方法でのマヨラナ粒子の観測を目指している。これまでに観測のための必要条件である一次元伝導体におけるクーパー対分離の実証に成功した。 マヨラナ粒子の観測手法の一つに交流ジョセフソン効果に起因したシャピロステップの観測を利用するというものがある。我々はこの手法によるマヨラナ粒子の観測を目指している。まず交流ジョセフソン測定が可能となるような測定環境を構築した。この測定系の質を確認する過程でナノ細線と超伝導体を用いたジョセフソン接合試料を測定したところ、特異な電流位相関係を反映した分数化したシャピロステップの観測に成功した。半導体ナノ細線を用いたジョセフソン接合においてこの分数化したシャピロステップを観測したのは初めてである。また、測定環境の構築にも成功したため残り一年間でマヨラナ粒子の観測を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マヨラナ粒子を観測する方法として交流ジョセフソン測定が知られている。マイクロ波照射下のジョセフソン接合では、電流掃引に対して電圧プラトー(シャピロステップ)が量子化値(h/2e×周波数)の整数倍に出現する。マヨラナ粒子が存在する場合、マヨラナ粒子のトポロジカル保護に起因して、奇数倍のシャピロステップが消失する。従って弾道的な並列二重ナノ細線ジョセフソン接合を作製し、クーパー対分離を実現しシャピロステップの測定を行えばよい。しかし弾道的な一次元伝導体のジョセフソン接合における物理自体未解明であったため、まずはその解明から着手した。特に弾道的な一次元伝導体のジョセフソン接合で交流ジョセフソン測定を行うと、分数化したシャピローステップの観測が生じるという理論予測があったものの、その実験的証拠は存在しなかった。そこで弾道的なAl/単一InAsナノ細線/Alジョセフソン接合を作製して、分数化したシャピロステップの観測に初めて成功した。この結果は弾道的なジョセフソン接合の物理を明らかにしただけでなく、並列二重ナノ細線を用いた無磁場におけるマヨラナ粒子の観測に向けての道筋を示した。ちなみにこの結果は現在論文にまとめ、論文誌にて査読中である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年google社により超伝導量子コンピューターを用いて量子超越性を証明したことが報道されるなど、量子コンピューターが世界の注目を集めている。量子コンピューターにはいくつかの種類が提案されており、その一つがトポロジカル量子コンピューターと呼ばれるものである。現在量子コンピューターの実現に向けて大きな障壁となっているのが量子ビットにおける量子操作のエラー率である。このエラー率が大きいと、そのエラーを訂正するために膨大な数のエラー訂正用の量子ビットが必要であることが分かっており、このエラー率の低減が急務である。トポロジカル量子コンピューターはその性質上エラー耐性があり大変期待されている。我々は前述したように無磁場でのマヨラナ粒子の観測を目指している。これまでの並列二重ナノ細線を用いたジョセフソン接合には欠点があった。それはナノ細線の電子密度を操作する上でゲート電圧が不安定であるということである。それは接合試料の作製過程でSEMを使用していたことによるナノ細線へのダメージが原因であった。現在代わりにAFMを使用することでこの問題を解決した。マヨラナ粒子は交流ジョセフソン効果にその特徴が現れる。ジョセフソン接合に高周波電圧を照射すると電流の掃引に対して電圧プラトー構造(シャピロステップ)が量子化値(h/2e×周波数)の整数倍に出現する。マヨラナ粒子が存在する場合、マヨラナ粒子のトポロジカル保護に起因して奇数倍のシャピロステップが消失する。このシャピロステップの消失を観測することによりマヨラナ粒子の存在を実証する。昨年の研究で交流ジョセフソン測定の環境の構築も完了したため、この一年をかけてマヨラナ粒子の観測を試みる。
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