2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19J13898
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
箕田 鉄兵 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 原始磁場 / 宇宙論 / 宇宙マイクロ波背景放射 / 21cm線 / 運動学的スニヤエフ・ゼルドビッチ効果 / ウルトラコンパクトミニハロー |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、磁場と構造形成の関わりを解明する上で、磁場の時間進化において重要な、宇宙初期に生成された可能性のある原始磁場について研究を行った。中性水素原子から放出される21-cm線の観測結果を用いて原始磁場の制限を行った。電波観測機器EDGESで2018年に検出された21-cm線の観測結果を用いて、原始磁場の性質を特徴付けるパラメータについて制限を行った。具体的には原始磁場のエネルギー散逸効果を考慮して宇宙の中性水素ガスの温度進化と電離度を定量的に見積もった。この計算結果を利用して、EDGESの観測結果と矛盾のないように、原始磁場のパラメータ範囲に制限を与えた。この結果、これまでその他の電波観測や宇宙の元素組成比から与えられてきた制限と比べて、1桁ほど強い制限をつけることができた。この結果について、査読つき学術論文を筆頭著者として1本発表し、国際学会で3件発表を行った。 次に、原始磁場が宇宙論的な構造形成に与える影響について研究を行った。原始磁場がローレンツ力を通して荷電粒子の運動に与える影響を見積もり、結果として生じるガスの速度場のパワースペクトルの計算を行った。この結果に基づいて、電子と光子の散乱によって生じる運動学的スニヤエフ・ゼルドビッチ効果の観測量を見積もった。この結果については、国内学会で2件発表を行った。 さらに、EDGESによる21-cm線の観測を用いてウルトラコンパクトミニハロー(UCMH)の制限を行った。UCMHは宇宙初期にダークマターが重力崩壊を起こすことで形成される天体である。ダークマターの対消滅によってUCMHから高エネルギーの光子が放出された場合の中性水素ガスの加熱率を見積もり、21-cm線の観測結果を用いてUCMHの制限を行った。この結果について、国内学会で1件発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、磁場と構造形成の関わりを解明する上で、磁場の時間進化において重要な、宇宙初期に生成された可能性のある原始磁場について研究を行った。中性水素原子から放出される21-cm線の観測結果を用いて原始磁場の制限を行った。電波観測機器EDGESで2018年に検出された21-cm線の観測結果を用いて、原始磁場の性質を特徴付けるパラメータについて制限を行った。具体的には原始磁場のエネルギー散逸効果を考慮して宇宙の中性水素ガスの温度進化と電離度を定量的に見積もった。この計算結果を利用して、EDGESの観測結果と矛盾のないように、原始磁場のパラメータ範囲に制限を与えた。この結果、これまでその他の電波観測や宇宙の元素組成比から与えられてきた制限と比べて、1桁ほど強い制限をつけることができた。この結果について、学術論文を1本発表し、国際学会で3件発表を行った。また、研究会の発表概要論文も1本発表した。 次に、原始磁場が宇宙論的な構造形成に与える影響について研究を行った。原始磁場がローレンツ力を通して荷電粒子の運動に与える影響を見積もり、結果として生じるガスの速度場のパワースペクトルの計算を行った。この結果に基づいて、電子と光子の散乱によって生じる運動学的スニヤエフ・ゼルドビッチ効果の観測量を見積もった。この結果については、国内学会で2件発表を行った。 さらに、EDGESによる21-cm線の観測を用いてウルトラコンパクトミニハロー(UCMH)の制限を行った。UCMHは宇宙初期にダークマターが重力崩壊を起こすことで形成される天体である。ダークマターの対消滅によってUCMHから高エネルギーの光子が放出された場合の中性水素ガスの加熱率を見積もり、21-cm線の観測結果を用いてUCMHの制限を行った。この結果について、国内学会で1件発表を行った。 以上、今年度は当初の計画を概ね達成できたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず様々な原始磁場のモデルに対する磁場と物質密度の空間分布を数値化し、これらを初期条件のデータとして宇宙論的なMHDのシミュレーションを行う。ここで、磁場の強度が波数のべき乗に従うような、磁場強度の空間依存性を考慮した原始磁場のモデルを仮定する。また、星の形成条件など小スケールの天体物理に磁場が与える影響は、単純な物理量の組み合わせ(例えば、ガスの密度と温度など)のモデルとして考慮する。実際の具体的なモデルについては、計算結果と最新の銀河の掃天観測のデータとを比較しながら整合性を考慮して決定する。例えば、宇宙の星形成率密度の時間進化や、銀河の数密度、2点相関関数などの観測量をシミュレーションの結果から見積もり、実際の観測データと比較して現実的な構造形成の理論構築を行う。 また、較正したMHDシミュレーションコードを使用して、ガス流体の衝撃波や乱流構造を銀河程度の大きさまで分解できる計算を行う。これによって、衝撃波や乱流が原始磁場を効率的に増幅して、近傍宇宙で観測されている銀河の磁場強度の説明が可能かどうか検証する。本研究の遂行によって、現在未解明である銀河の磁場の起源について大きな手がかりを得られると考えられる。さらに、本年度は銀河団中の磁場が銀河団内部のプラズマガスの熱的な構造に与える影響をMHDシミュレーションを用いて解明する。この研究を遂行することで、現在X線や電波観測から見積もられている銀河団の存在量の見積もりに磁場の強度がもたらす不定性を明らかにすることができ、銀河団の統計量を用いた宇宙論について多大なインパクトをもたらすことができる。
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Research Products
(9 results)