2019 Fiscal Year Annual Research Report
分子動力学法シミュレーションによる単層カーボンナノチューブの成長機構解析
Project/Area Number |
19J13916
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉川 亮 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 単層カーボンナノチューブ / 分子動力学シミュレーション / 結晶成長 / 金属ナノ粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
単層カーボンナノチューブ(単層CNT)は構造によって導体と半導体が存在することから応用に向けて構造を制御するが重要である.近年合金のナノ粒子を触媒に用いて単一の構造の単層CNTを成長させる実験が報告されているが,その仕組みについてはよくわかっておらず,理論的バックアップが必要な状態である. 分子動力学(MD)シミュレーションは単層CNT成長などの原子数の多い現象の解析に適したシミュレーション手法である.しかしながら合金・炭素の3元系において原子間の相互作用を表すポテンシャル関数が開発されていず,合金触媒上の単層CNTの成長を再現するには至っていなかった. 本研究では合金・炭素系の相互作用を表すポテンシャル関数を作成しMDシミュレーションで単層CNTの成長を再現・分析することを目的としている.一昨年度鉄・コバルトのポテンシャル関数を作成することができたため,昨年度はそれを用いた単層CNTの成長再現および銅・コバルトとタングステン・コバルトのポテンシャル関数の作成を行っていた. 鉄・コバルト上の単層CNTの成長に関して,触媒ナノ粒子の大きさを固定し,鉄の割合や温度条件と単層CNT成長の関係を調査した.その結果鉄の割合が高いほど単層CNTの成長に適した温度が下がることが判明した. 銅・コバルトのポテンシャル関数を作成し,まず金属微粒子だけでMDシミュレーションを行ったところコバルトのみと銅に微量のコバルトが溶解したものの2つの微粒子に分かれた.この現象は実際に起こるとは考えづらく,ポテンシャル関数の妥当性を議論し作成しなおすことが必要だと考えられる. タングステン・コバルトに関しては理論計算とポテンシャル関数でのエネルギー計算の結果が著しく乖離しており,そのうえでポテンシャル関数の妥当性を判断しながら作成を行っていた.その結果妥当かもしれないポテンシャル関数が得られたところである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は鉄・コバルト,銅・コバルト,タングステン・コバルトのそれぞれに炭素を加えた3元系について,分子動力学(MD)シミュレーションで使用可能な原子間相互作用を表すポテンシャル関数を作成し,合金触媒上の単層カーボンナノチューブ(単層CNT)の成長を再現することを目的としている.昨年度は鉄・コバルト上の単層CNT成長再現,分析および銅・コバルト,タングステン・コバルトの相互作用を表すポテンシャル関数の作成を行ってきた. 鉄・コバルト上の単層CNT成長再現について,鉄の割合および系の温度をパラメータとして,単層CNT成長との関係を調査した.その結果鉄の割合が多いほど単層CNTの成長に適した温度が低下することが判明した.これはシミュレーション上で鉄単体での単層CNT成長が低温でも進行することと関係していると考えられる.また,単層CNTの成長端の様子を観察したところ,鉄単体およびコバルト単体の触媒上での成長の様子の中間と呼べる状態になっていることが判明した. 銅・コバルト触媒について,理論計算での各種格子エネルギーの値とポテンシャル関数から計算できるそれらのエネルギーの値を比較し,最も妥当だと考えられるポテンシャル関数を採用してシミュレーションを試みた.その結果銅・コバルト微粒子がコバルトのみからなる微粒子と銅に微量のコバルトが溶解した微粒子に分かれる現象が観察された.これは表面張力の存在と矛盾する結果であり,ポテンシャル関数の妥当性に疑問が残った. タングステン・コバルト触媒に関しては,理論計算とポテンシャル関数の間の乖離が大きかったため,エネルギー値よりはそのピークの位置と深さに重点を置いてポテンシャル関数の選定を行ってきた.その結果シミュレーションに使えるかもしれない関数が得られたところである. 以上より,本年度の研究に支障を来さない程度には進捗していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究も3つのポテンシャル関数,すなわち鉄・コバルト・炭素系と銅・コバルト・炭素系,タングステン・コバルト・炭素系についてそれぞれ性質を調べ,単層カーボンナノチューブ(単層CNT)の成長を再現・分析することを中心として推進していく. 鉄・コバルト・炭素系について,昨年度行ったシミュレーション結果からこの系での単層CNT成長の詳細なデータを集めることができた.本年度はそのデータを解析し,ほかの実験・シミュレーションと照らし合わせてこのポテンシャルの性質および実際の鉄・コバルト合金触媒での成長について示唆を得ることを目標とする.また,鉄・コバルト微粒子はある大きさになると炭化物を形成する可能性があり,この構造を特定し実験と比較することも期待される. 銅・コバルト・炭素系について,炭素を除く2金属の微粒子は透過電子顕微鏡の観察結果から銅の多い微粒子とコバルトの多い微粒子が完全に分離せず接合している形となることが期待されるため,まずはこれの再現を目指してポテンシャル関数の再構築を試みる.そのうえで炭素を投入して単層CNTの成長を再現できるか,また再現できた場合それぞれの金属がどのような役割を果たすのか検証を行っていく. タングステン・コバルト・炭素系について,この系は盛んに実験が行われており,炭化物微粒子の構造から単層CNTの構造制御合成まで様々な結果が見られる.これらをすべて分子動力学(MD)シミュレーションで再現できる可能性は低いが,単層CNTの成長速度や微粒子内での原子配置など比較のできる項目も多い.したがって昨年度作成したポテンシャル関数を用いて単層CNTの成長再現をし,詳細なデータを取得することで実験とシミュレーションの比較や理論とシミュレーションの比較など他チームの結果と照らし合わせて本チームの結果がどのような位置づけになるか検討できることが期待される.
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Research Products
(2 results)