2019 Fiscal Year Annual Research Report
Rydberg状態を利用した長距離・超高速電子移動反応の実現
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19J13917
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
古賀 雅史 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 電子移動 / 光イオン化 / フェムト秒 / 過渡吸収 / Rydberg状態 / 溶媒和電子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Rydberg状態のような非局在化した電子状態の挙動を明らかにするために、フェムト秒逐次二光子励起過渡吸収分光を用いた研究を行った。液相中での非局在化した電子の緩和過程を明らかにすることは、高効率な電子移動反応システムを実現する上でも非常に重要である。本研究では、溶質の励起状態、カチオン、電子の直接観測による液相中非局在化した電子の緩和ダイナミクスを明らかにすることを目的とし、種々のアミン誘導体を用いたフェムト秒逐次二光子励起過渡吸収分光を行った。 液相中に放出された電子は、周囲溶媒の配向緩和によって溶媒和電子を形成する。この溶媒和電子は可視-近赤外領域に非常にブロードな吸収を有する。一方で緩和前の”ホットな状態”にある電子は一般に800 nmより長波長側の近赤外領域に強い吸収を有している。本研究では、レーザー光の波長、スポット径、白色光発生に用いる光学結晶、集光位置などを厳密に調整することにより1600 nmまで測定可能な白色光を作成し、365-1600 nmという超広帯域に吸光度変化をプローブすることで非局在化した電子の緩和過程の観測にアプローチした。 実験結果の詳細な解析の結果、エタノール中N,N-dimethylaniline (DMA)のようなアミン誘導体において、電子の溶媒和緩和速度はカチオン生成速度と非常に近い値をとることが明らかになった。この結果は光励起後溶質周囲に非局在化した電子が、近接する溶媒分子の配向緩和によって溶質から切り離される挙動を直接捉えたものと考えられる。さらに、アセトニトリル溶媒において、放出された電子が溶媒分子に素早く捕捉され、二量体アニオンを形成する様子を明確に観測することに成功した。この結果は、高エネルギーの光励起によって生成した電子が後続の電子移動過程進行に重要な役割を果たすことが示唆される結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非局在化した電子状態の緩和過程の観測に成功したことは、Rydberg状態を利用した電子移動システムの構築の上で非常に有用な情報である。これにより、電子状態選択的な励起によって電子の非局在化を誘起し、長距離かつ超高速電子移動反応が進行可能となることが強く示唆されている。この内容は2019年9月に名古屋で行われた分子科学討論会において口頭による発表を行っている。十分な考察に基づいた発表によって学生講演賞を受賞した。現在では得られた測定結果をまとめ、近日論文として発表予定である。さらに、電子状態選択的な反応誘起のために、高位励起状態生成に用いる励起光の波長を自在に制御可能な測定系の構築を行った。これを用いてフェムト秒二段励起過渡吸収スペクトルの励起波長依存性を取得することに成功している。この測定システムを用いて、現在はRydberg状態を経由した電子移動反応の直接観測に必要な励起、測定条件を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は測定条件を詳細に検討することで電子状態選択的な電子移動反応観測が可能な測定システムを完成させていく。さらに電子状態選択的な測定システムの構築が進めば、実際のドナー・アクセプター系に応用し電子移動反応を直接観測する。 現行の測定系では、励起光として用いる可視光のパルス幅の制約から時間分解能は80フェムト秒程度に制限されており、電子移動が起こる瞬間の過程の観測にはさらなる時間分解能の向上が求められる。そこで、非同軸光パラメトリック発振器を新規に自作し、時間分解能の向上に取り組む。パルス幅の圧縮には本研究室が有する空間位相変調器を用いパルスの群速度分散を精密に補償した超短パルスの構築を目指す。これを現行の二段励起システムに導入することで、高い時間分解能で、かつ波長選択的な励起を実現し、Rydberg状態のような特異電子状態を利用した電子移動反応を実現する。また、緩和前の電子のより詳細な挙動の観測のために2200 nmまで測定可能なマルチチャンネル分光器を用いた測定制御プログラムを構築し、高い時間分解能の測定装置と組み合わせることでRydberg状態生成、電子移動の瞬間を捉える。
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Research Products
(5 results)