2019 Fiscal Year Annual Research Report
東部インドネシアスラウェシにおける海民バジョの「起源説」をめぐる文化人類学的研究
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19J13965
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
加藤 久美子 上智大学, グローバル・スタディーズ研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | バジョ(サマ) / スラウェシ / 口頭伝承 / 儀礼 / 海域世界 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の前半は、これまでの調査で得た情報・資料の整理、及び先行研究の見直しを行った。結果、本研究の対象地域では先行研究には見られない儀礼の形式化が見られることが明らかになった。上記の成果をまとめ、東南アジア学会関東例会で「インドネシア・スラウェシのバジョ集落における儀礼とバジョ起源説」と題した研究発表を行った。そこでは、参加者及びコメンテーターから貴重な知見を得ることができた。 8~9月には、現地調査を行い、成果をより深く考察分析するために必要な情報を収集した。本現地調査では未調査であった複数の集落にも訪れ、聞き取り調査を行った。それにより、南東スラウェシ州の多数のバジョ集落で他集団ブギスの王国神話に接続するバジョ起源説が語られていることが確認できた。また、これまでの調査では語られなかった神話の詳細及び、集団的移動史とその理由に言及する口頭伝承を収集することができた。加えて、出産儀礼などの儀礼行為には、海に対する信仰が見られることも分かった。これらの信仰はすでに他地域に関する先行研究の中で言及されているものも含まれているが、南東スラウェシ独自と思われる信仰対象も存在していることが改めて確認できた。 本課題の主題となるのは、口頭伝承によるバジョの起源説と他集団との社会関係の解明であるが、本年度の研究成果で得られた独自の儀礼信仰に関連して他集団との社会関係が語られる場面も多く、儀礼実践も他者受容に非常に重要な役割を担う可能性が見出せた。また、起源説のような口頭伝承が語られる背景には、独自の信仰や精神世界の存在があり、儀礼の分析を通してそうした観念を明らかにすることができれば、口頭伝承についての分析や考察を深めることができるといえる。 現地調査後、南東スラウェシにみられる独自の信仰と儀礼に関する投稿論文の執筆を開始した。執筆した論文は『東南アジア研究』に投稿し、現在査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、先行研究の見直しや考察の軸となる理論の模索などこれまでの研究成果を発表、論文を執筆するための基礎となる研究活動に注力した。その結果、南東スラウェシにおける口頭伝承のみならず、儀礼実践に関しても、地域の独自性が見出せることが明らかになった。研究成果は国内学会において発表し、同地域の研究者とも意見を交わし知見を深めることができた。また、現在査読中であるが、この成果に関して投稿論文を執筆した。 史資料の収集は難航しているが、儀礼実践と海信仰という新たな着眼点を得られたことで考察をさらに深めていくことができると感じている。よって、本年度の研究進歩状況は、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度には、本研究課題を主題とした博士論文の執筆に注力したい。 博士論文執筆に向けた議論を深めるためには、新たな知見を得ることのできる発表や議論の場が非常に重要である。しかし、世界的に移動や集会を制限せざるを得ない状況となっていることから、小規模ではあるが研究成果の発表の場、議論の場をオンラインに移す方法を模索していきたいと考えている。また、現地調査の計画に関しても日程や期間などを世界情勢に合わせ柔軟に対応していきたい。
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