2019 Fiscal Year Annual Research Report
二院制の下での上院の権限及び組織のあり方に関する考察
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19J14148
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石原 佳代子 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 二院制 / 参議院 / 選挙制度 / 地域代表 / 民主的正統性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、二院制の下での上院の組織のあり方として、「地域代表」的な考慮を行う可能性(あるいは限界)について、その権限との関連にも注意を払いながら、考察するものである。本年度は主たる比較法対象国となる、ドイツの連邦参議院の組織のあり方をめぐる議論を中心に検討を進めた。具体的には、①基本法制定時、②1970年代以降、問題視されるようになった「封鎖政治」の時代(連邦政府とこれを支える連邦議会多数派と、連邦参議院の多数派の間で党派的な食い違いが生じていた時代)、③近年、多党化・分極化が進む中で、各州政府において、連邦政府レベルでの連立とは異なる政党構成から成る連立政権が樹立される事例が増えたことにより、連邦参議院における多数派形成がより困難になりつつある時代、に重点を置いた。①の検討に際しては、基本法の下での連邦参議院が、これに先立つ時代から強い影響を受けてきたことに鑑み、ワイマール憲法の下でのライヒ参議院をめぐる議論等についても、必要に応じて参照した。 また、ドイツと同じく連邦制でありつつも、票数の配分や議員の選出のあり方といった点で現在異なる形態を採用しているアメリカの連邦議会上院を比較対象に加えた。州の代表としての色彩の濃淡という点で違いのある、ドイツの連邦参議院とアメリカの連邦議会上院を比較することは、連邦制をとらない日本の参議院をめぐる「地域代表」の議論を深化させる上でも有意義なものと思われる。 最後に、本研究に関連した判例評釈として、「千葉県議会議員定数配分規定の合法性・合憲性」法学論叢186巻3号(2019年)137頁以下を公表した。本評釈は、直接的には地方議会における定数不均衡の問題を扱ったものであるが、憲法43条1項における「全国民の代表」の問題に関する検討を含むものであり、本研究と密接にかかわるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は当初、二院制の下で上院が持つ民主的正統性と、上院の下院に対する抑制力の関係について考察することを予定していたが、研究対象があまりに広範になることに鑑み、日本の参議院をめぐる民主的正統性の議論において中心的に議論される「地域代表」の問題に検討の軸を絞ることとした。そのため、補充的な比較法対象国としてアメリカを加え、第一に日本の参議院に関する先行研究の概観と整理、第二に上院を設けることに関する理論的な議論の検討、第三にドイツの連邦参議院とアメリカの連邦議会上院との比較法的考察、との三つの段階を含んだ形で研究を進めることとした。 このように研究計画への若干の修正を加えたものの、本年度前半、第一の段階についての整理を終えたほか、第三の段階において主たる比較法対象国であるドイツの連邦参議院に関する検討も、概ね計画通り進捗し、現在検討の主眼はアメリカの連邦議会上院へと移っている。さらに、第二の段階に関して、ドイツ・アメリカ両国がともに連邦制を採用する国であること、とりわけドイツに関してはその連邦参議院が、「第二院」にあたるかどうか自体が疑問視され得ることに鑑み、そこでの議論を日本の参議院をめぐる議論へと架橋する際の足掛かりになるよう、第二院を設けることに関する理論的・歴史的基礎づけに目を向けたほか、当初、主たる比較法の対象として(学術振興会特別研究員採用前に)検討を進めていたイギリスの貴族院をめぐる議論を、ここに位置づけることとした。従って、現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
以上のような進捗状況を踏まえ、次年度は、まずアメリカの連邦議会上院に関して、ドイツの連邦参議院と比較可能な限りにおいて検討を進める。その後、主としてはドイツ、補充的にアメリカ、という両国との比較法的研究から抽出した見地をもとに、日本の参議院の組織のあり方として「地域代表」的な議論をすることの可能性(あるいは限界)と、「地域代表」的な構成を許容する場合、日本国憲法に照らして、いかなる制度設計が要請されるのか、許容されるのか、禁じられるのか、を整理する。これらの研究の成果として、博士論文の執筆、提出を予定している。
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