2019 Fiscal Year Annual Research Report
炎症性腸疾患患者の腸内微生物群集における溶原性ファージの役割の解明
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19J14228
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西山 拓輝 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 炎症性腸疾患 / 腸内微生物群集 / 溶原性ファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、炎症性腸疾患患者の腸内環境における溶原性ファージと宿主細菌との関係を明らかにし、本疾患への影響について調査することである。そのため、2019年度は、IBDMDBにて公開されている炎症性腸疾患などの患者の腸内メタゲノムデータから作成したコンティグ(ゲノム断片)を基にA)細菌ドラフトゲノムを構築し、B)それらにプロファージとして組み込まれている溶原性ファージの検出を実施した。細菌ドラフトゲノムの構築では、ビニングと呼ばれる手法により、k-mer出現頻度およびマッピングされたリード数の情報を用いて各コンティグを細菌ドラフトゲノムに分別した。しかし、ビニングで得た細菌ドラフトゲノムは、多くの場合、未完成であり、他ゲノム由来のコンティグが混在している。そこで、各細菌ドラフトゲノムに含まれるシングルコピーマーカー遺伝子の情報からそれらの完成率および汚染率を推定し、完成率が70%以上で且つ汚染率が10%以下のものを検出し、後の解析に使用した。そして、ゲノム配列の比較により、これらの内、重複しているものを除き、最終的に3,000以上の細菌ドラフトゲノムを得ることに成功した。溶原性ファージの検出では、まずVirSorterツールを用いて各コンティグに含まれているウイルス由来の遺伝子を抽出し、ウイルス領域を推定した。次に、配列類似度に基づいてこれらのウイルス領域を操作的分類群に分類した。これらの内、コンティグにおける占有率を基にプロファージ由来であるとVirSorterにより推定されたウイルス領域を含む操作的分類群を溶原性ファージに由来している可能性のあるものとした。しかし、コンティグにおけるウイルス領域の占有率のみで、それらがプロファージであると断定することは難しいため、現在、遺伝子組成の観点からこれらのウイルス領域が溶原性ファージに由来しているのかについて再度検証している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の目的では、IBDMDBのメタトランスクリプトームデータを用いて溶原性ファージの遺伝子発現について解析を実施する予定であったが、上述した細菌ドラフトゲノムの構築やプロファージ領域の特定に時間を費やしたため、現時点では解析パイプラインを構築している途中である。また、IBDMDBのウイルス粒子メタゲノム(ヴィローム)データを活用することで、検出した溶原性ファージの内、増殖能を保持しているファージ(つまり欠損ファージではないもの)を判別する予定であった。しかし、ヴィロームデータのリードを細菌ドラフトゲノムにマッピングした際に、多くのリードが非ウイルス領域にマッピングされたため、現在別の方法で検出した溶原性ファージの増殖能の有無を判別できないか模索している。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究により、ヒトの腸内環境には予想より多くの溶原性ファージが細菌ゲノムにプロファージとして組み込まれていることが分かった。本年度は、前年度において未達であった内容を含め、炎症性腸疾患における溶原性ファージの役割を解明すべく研究を進め、得た結果を論文にまとめて国際科学雑誌に投稿することを目指す。
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Research Products
(1 results)