2019 Fiscal Year Annual Research Report
43-40万年前の退氷期における南半球高緯度での気候変動をもたらした要因の分析
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19J14488
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木野 佳音 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 水同位体GCM / 古気候モデリング / 南極 / アイスコア |
Outline of Annual Research Achievements |
水安定同位体の分別過程が組み込まれた気候モデル MIROC5-iso (Okazaki and Yoshimura, 2017; 2019) を用い、産業革命前の気候場を再現する定常応答実験を行った。実験設定は、気候モデル相互比較プロジェクトに準拠した。得られた気候場における降水の酸素同位体比は、代表的な古環境復元(氷床コア、鍾乳石)やとよく一致することが確認できた。また、いくつかの課題も明らかとなった。現在、最終氷期最盛期 (約2.1万年前) の気候場を求める定常応答実験を行っている。実験設定は、気候モデル相互比較プロジェクトに準拠した。ただし、海洋境界条件はMIROC大気海洋結合モデルから得られた気候値を用いた。 MIROC5-isoを用いた現在気候再現実験 (JRA25気象場へデータ同化, Okazaki and Yoshimura, 2019) を2010年まで延長し、2で収集した通年観測データとそれぞれ対応する年についての比較を可能とした。 過去の事例解析によって、総観規模擾乱の活動が南極内陸の極端昇温・降水イベントにとって重要であることが知られており (Hirasawa et al., 2000ほか) 、重い水同位体をもたらすことが指摘されている (Fujita and Abe, 2006ほか)。今回の実験結果の解析により、MIROC5-isoにおいても、総観規模擾乱の活動に伴う極端昇温・降水イベントとともに、ドームふじ・ドームCの降水同位体比が重くなっていることが確認された。いくつかのイベントは特によく再現されていると見込まれる。現在、解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MIROC5-isoの古気候実験への適用方法の検討に、想定していたより時間がかかった。具体的には、以下の課題が明らかとなった。 1.1.産業革命前の陸面境界条件をMIROC5-isoに適用した場合、氷床グリッドにおいて、地表面温度が高くなりすぎることで水蒸気の水同位体が異常に軽くなってしまった。このことは、気候モデルMIROC内で氷床がじゅうぶんな冷源となっていないことに起因し、特に北半球高緯度で問題となる。本研究の主眼は南半球にあることから、暫定的に現在の氷床分布を用いることとした。 1.2.西暦1870年を初期値とした場合でも、与えた境界条件とのギャップによって数値不安定が起きやすく、ときどき発散して計算が落ちてしまった。様々なタイムステップによる実験を試した結果、従来 (30分) の1/3-1/2程度 (10-15分) が、数値安定性と計算効率の両面からみて適当であると判断した。また、数値不安定は特に砂漠や氷床といった乾燥地帯で起きやすく、水同位体比が大気・陸面間で受け渡される過程で増幅し、数値発散する場合があることを確認した。一般に古気候実験では、現在気候から大きく異なった境界条件をモデルに与え、また数十年以上の積分によって定常応答を得る。よって、計算の安定性の確保は重要な課題となり、共同研究者らと協議中である。 一方、共同研究者との連携により、タイムステップを短くしてもなお、計算時間を50%以上短縮することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在気候再現実験を観測と比較することで、MIROC5-isoの特に南半球高緯度における実力を評価する。並行して、最終氷期最盛期の気候場を求める実験を、引き続き行っていく。陸面境界条件、特に氷床分布の変化は全球の水循環に大きな影響を及ぼすため、慎重に扱う予定である。 その後は、産業革命前実験と最終氷期最盛期に対して、氷床コアから得られた約80万年の水同位体比をデータ同化する。得られた気候場について解析し、ミランコビッチ・フォーシングの役割について、Uemura et al. (2018) と比較、議論を行う。
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Research Products
(10 results)
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[Presentation] 過去 150 万年の氷期サイクル気候と古い南極氷探索のためのモデリング研究2019
Author(s)
阿部彩子, 小長谷貴志, 齋藤冬樹, 川村賢二, 津滝俊, 藤田秀二, 本山秀明, 渡辺泰士, Ralf Greve, シェリフ多田野サム, 木野佳音, Wing-Le Chan, 三ツ井孝仁
Organizer
雪氷研究大会
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