2019 Fiscal Year Annual Research Report
霊長類脊髄損傷モデルにおける運動関連領野の神経可塑的変化の解明
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19J14692
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高田 裕生 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 脊髄損傷 / 神経可塑性 / ニホンザル |
Outline of Annual Research Achievements |
随意運動を制御する皮質脊髄路が脊髄損傷などによって傷害を受けると損傷部位以下に著しい運動機能の低下が生じる。特に、手指の運動機能低下は回復が困難であり日常生活を制限する大きな要因となっている。これまでに先行研究において、脊髄損傷後の運動機能回復には、一次運動野由来の皮質脊髄路の神経回路再構築が重要であることが報告されている。しかし、皮質脊髄路を形成する神経は一次運動野だけでなく他の運動関連領野にも分布している。これらの運動関連領野が脊髄損傷後の運動機能回復にどのように寄与しているかについては、未だ不明な点が多く存在する。そこで本研究では、ヒトと類似した神経機構を有するマカクザル(ニホンザル)を用いて脊髄損傷モデルを作製し、運動関連領野(一次運動野、補足運動野、背側及び腹側運動前野)における神経の可塑的変化と運動機能の変化の関係を明らかにすることを目的とした。運動機能の評価には、Reaching and grasping taskを用いて脊髄損傷前後の手指の巧緻性を定量化した。神経の形態の解析は、樹状突起と樹状突起スパイン(スパイン)を対象とし、ゴルジ染色法を用いて組織を可視化した。昨年度は、これまで不明であったサルの健常個体における各運動関連領野の神経の形態を明らかにした。そして、これらの形態は領野間で異なっていることを明らかにした。その後、脊髄損傷の急性期モデルを作製し、健常個体と樹状突起とスパイン比較を行った。その結果、各運動関連領野において神経の樹状突起とスパインの形態が単純化していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、急性期モデルと回復期モデルの脊髄損傷個体を作製した。そして、当初の予定通り初めに健常個体と急性期モデルにおける神経の形態比較を行った。その結果、脊髄損傷後、各運動関連領野において神経の形態が単純化していることが明らかになった。この結果は、脊髄損傷後の運動機能低下は一次運動野だけでなく他の運動関連領野も関与している可能性を示唆している。また、この結果はSfN2019にてポスター発表された。現在は、国際誌に投稿するための執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、主に脊髄損傷による各運動関連領野への影響を明らかにすることを目的として研究を行ってきた。しかし本年度は、どのように手指の機能が回復するのかを明らかにすることを目的として研究を行っていきたい。これまでに、回復期モデルを1頭作製している。そこで、本年度はさらに頭数を増やすことを目的として研究を行う。また、脊髄損傷などの中枢神経損傷後の神経の可塑的変化は、単純化した神経が徐々に複雑な構造となり、その後神経の刈り込みが生じ損傷前に近い神経構造を取り戻すと考えられている。この神経の可塑的変化に伴って運動機能が回復することがこれまでにげっ歯類において報告されている。この過程は、発達における神経の可塑的変化や手指の巧緻性の獲得に類似している可能性がある。そこで、本年度は脊髄損傷の実験に加えて子ザルの発達過程における神経の形態変化を調べる。これらの実験を通して機能回復時の神経可塑的変化と運動機能獲得時の神経可塑的変化の共通性や独自性を明らかにすることによって、運動機能回復時の神経回路の再構築機構を解明するための一助となる研究を行う。
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