2019 Fiscal Year Annual Research Report
最適水温の雌雄差が生息域の違いを生み出すか:ウミガメを用いた実証研究
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19J14811
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木下 千尋 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ウミガメ / バイオロギング / 代謝速度 / 遊泳速度 |
Outline of Annual Research Achievements |
三陸沿岸域で混獲されたアカウミガメとアオウミガメを合計 45 個体収集した。入手したウミガメのうち 10 個体を用いて代謝速度を測定した。水温 15-25°Cの時の両種の安静時の代謝速度を求め、他分類群、他種、他個体群との比較を行なった。海棲鳥類と比較すると両種の安静時の代謝速度は 1/20 程度であり、既往研究で報告されている差と同程度であった。アオウミガメとアカウミガメの代謝速度に大きな種差は見られなかった。 水温が変動した時のアオウミガメの代謝速度の変化率は、他海域で通年活動性を維持するアオウミガメの個体群と同様であった。雌雄の比較は令和2年度の調査で行うこととする。 入手したウミガメのうち 14 個体は、放流時に 動物搭載型の行動記録計を装着し、野生下での経験水温、滞在深度、3 軸加速度、3 軸地磁気、遊泳速度を調べた。ウミガメ類の自然下での持続的な遊泳速度、すなわち巡航遊泳速度の測定と、抵抗係数の推定を行なった. さらに形態計測からウミガメ類の前面投影面積と体重の関係式を 求めた.測定した休止代謝速度と前面投影面積,推定した抵抗係数,その他既往研究値をもちいて,ウミガメが移動する際にエネルギーコストを最小にできる速度である最適遊泳速度を推定した. 結果,最適遊泳速度は 0.22 -0.37 m s-1であり,野外におけるウミガメ類の巡航遊泳速度0.28-0.51 m s-1と同程度の範囲となった。したがって,ウミガメ類は移動の際,最適遊泳速度を選択していると考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用者は平成31年度に精力的にフィールドワークを行い、三陸沿岸の広い範囲(岩手県大船渡市から久慈市)で操業 する定置網漁業者の協力を得て、研究対象種であるアカウミガメとアオウミガメの野生個体を収集した。形態計測を行ったのちに、10 個体の代謝速度を測定した。代謝速度測定中は、活動度や心拍数も 測定しデータを入手できた。また、14 個体には行動記録計を装着して海に放流し、野生下での遊泳速度や経験水温、3 軸加速度等の行動データを取得した。行動記録計から得られたウミガメの遊泳速度は秒速 0.2-0.4m であった。ウミガメの遊泳速度がどのように決定されるかについて、形態計測、代謝速度測定、 行動記録計のデータから推定された抵抗係数を用いて、エネルギー面と力学面の視点からの解明を行なった。この結果は、現在投稿用論文として執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は確立させた代謝速度測定手法を用いて、ウミガメの代謝速度の雌雄比較を行う予定である。アカウミガメ幼体では、孵卵温度の低い巣から生まれた個体(オス)は高い巣から生まれた個体(メス)よりも陸上での運動能力が高いことが明らかになっている。アオウミガメでも陸上での運動能力に雌雄差があることが明らかになっており、何らかの行動基盤が異なると考えられる。ウミガメの幼体を用いたエネルギーの代謝速度実験はこれまで多く行われてきているが、雌雄差に着目した代謝速度の研究例はない。そこでこれからは、孵卵温度、すなわち雌雄によって代謝速度が変わるか否かを調べることを目的とした研究を進めていく。調査場所は小笠原諸島の父島とする。
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Research Products
(1 results)