2019 Fiscal Year Annual Research Report
光侵入長を制御したフェムト秒レーザーアブレーションによる次世代金属表面加工の研究
Project/Area Number |
19J14818
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
古川 雄規 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | フェムト秒レーザー / 金属表面加工 / ポンプ-プローブ測定 / 光侵入長 / レーザーパルス列照射 / チタン / 白金 |
Outline of Annual Research Achievements |
フェムト秒レーザー(フェムト秒 = 10^-15秒)が金属に照射されると、融解や蒸発、イオン化により表面層が剥離、飛散される。この現象は「アブレーション」と呼ばれる。金属の切断や溶接、また、表面層改質への応用を目指して、アブレーションの物理が研究されてきた。 近年、GHz(10^9 Hz)以上の高繰り返しレーザー装置や、ピコ秒(10^-12秒)程度の時間差をつけたレーザーパルス列を発振させるレーザー装置が開発され、従来にない加工、表面改質への応用が期待されている。レーザーパルス列による金属表面加工の物理を理解するためには、「レーザーパルスが金属に照射された後、ピコ秒からナノ秒経過後の金属表面の光学特性」を測定することが重要であった。レーザーパルス列による金属表面加工では、レーザーパルスがピコ秒からナノ秒(10^-9秒)という極短時間の時間間隔で繰り返し照射されるためである。しかし、ごく短時間に変化する光学特性を測定する手法は開発されておらず、物理解明を目的とした実験も報告例がなかった。
そこで、本研究では、レーザーパルス列照射による金属表面加工の物理過程を解明することを目的として、過渡的な光学特性の変化を測定する新規ポンプ-プローブ測定法の開発と測定を進めている。 研究第一年度目は、(1) 過渡的な光学特性の時間変化を測定する新規手法を確立し、(2) チタンおよび白金に対するレーザーパルス列照射について光学特性の時間変化を測定した。数百ピコ秒の時間差がある2つのパルスからなるパルス列を照射する場合に、第2パルス照射時の光侵入長が大きく減少することを明らかにした。 以上の成果を学会、論文にて発表した。現在、実験成果を説明する物理モデルの構築、および構築するモデルを支持するための発展実験を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究第1年度の第1目標であった「レーザーパルス列照射における過渡的な光学特性の新規測定手法の開発」については、手法を確立し、目標が達成された。この新規手法の開発に関する成果を論文にまとめ、欧文誌に投稿した。既に受理され、掲載済みである。
一方、研究第1年度の第2目標であった「複数種の金属についての光学特性測定実験の実施」については、チタンと白金の2種についてしか測定できおらず、進捗がやや遅れている。当初は、物性値(質量、熱伝導率、表面酸化膜の有無など)が異なる5種程度の金属について光学特性の時間変化を測定し、レーザーパルス列照射による金属表面加工の物理モデル考察に役立てる計画であった。 進捗が遅れた理由は2つある。1つ目の理由は、光学特性の時間変化測定結果が再現性の確認に時間を要したことであり、現在は再現可能な実験条件が整理され問題は解決されている。2つ目の理由は、実験に用いるレーザー装置の不調であり、数か月程度の遅れが生じた。こちらも不調が改善され、現在は実験可能である。 以上のように第2目標は遅れた進捗ではあるが、チタンと白金については「光侵入長の減少」という新しい物理を確かに示す実験結果を得ている。レーザーパルス列照射による金属表面加工の物理モデル構築に役立つ研究成果は得られたと考え、進捗は「やや遅れている」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの光学特性測定実験により、ポンプパルス照射により金属表面の光侵入長が変化することが明らかとなった。今後は、このような特異な現象が起きる背景にある物理過程のモデル提案とモデルを支持する追加実験を行う必要がある。 まず、新規ポンプ-プローブ測定法により得た光侵入長の時間変化を、誘電率や電子密度の時間変化に変換するモデルを構築する。誘電率や電子密度の変化は電子の動きに起因すると考えられ、これらの時間変化を調査することは、レーザーパルス列照射による金属表面加工において、金属表面の電子が果たす役割を明らかにすることにつながる。 次に、誘電率や電子密度の時間変化計算モデルを支持する実験として、異なる波長のレーザーパルス列を用いた金属表面加工を行う。今まではポンプパルス、プローブパルスともに波長810nmのレーザーパルスを用いてきた。一般に、金属の光侵入長は照射するレーザーパルスの波長に依存して変化する。よって、プローブパルスの波長を405nmに変えると、本研究の手法により測定される光侵入長の値が変化すると予想される。しかし、ポンプパルスにより金属表面に誘起される光学特性の変化は、プローブパルスの波長には本質的に依存しない。そこで、異波長レーザーパルス列照射実験についても、測定された光侵入長を誘電率や電子密度の時間変化に変換すれば、今までの実験と同じ結果が得られると期待する。 以上の考察、実験によりレーザーパルス列照射による金属表面加工の物理過程を明らかにするとともに、ポンプパルス照射により光学特性を制御した金属表面へナノ構造(レーザー誘起周期構造など)形成する応用研究を行う。
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