2019 Fiscal Year Annual Research Report
物理パラメータに着目した、細胞内外ナノ構造の空間的制御
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19J14903
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Research Institution | Toyama Prefectural University |
Principal Investigator |
延山 知弘 富山県立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | HDL / 金ナノロッド / 脂質ラフト / 1細胞手術法 / 脂質膜 / ナノ科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究の基盤となる脂質膜の相分離制御技術の確立、並びに1細胞手術法の確立に成功した。また膜の物理パラメータの一つである膜組成を制御する手法の一つとなる、膜に融合して脂質膜に脂質を外部供給可能なナノデバイスの作成に共同研究者と共に成功した。以下に詳細を述べる。 脂質ラフトの制御に関しては、モデル脂質ラフトである固体秩序(Lo)相ドメインに吸着する光熱変換材料(高比重リポタンパク質被覆金ナノロッド,pm-AuNR)を作成し、モデル脂質ラフトの離散化を行うことに成功していた。本年度はこの現象の逆過程、すなわちLo相を、So/Ld相分離GUV上に、近赤外光照射によって望みのタイミングで出現させることに成功した。本研究は脂質ラフトの生成消滅を制御しうるナノ材料を開発した初の例である。 1細胞手術法に関しては、申請時に達成していたエンドソーム膜の切開のみならず、これを多数の細胞に同時に行うこと、並びに蛍光RNAを細胞内に「移植」することに成功した。1細胞手術法は爆発性分子を内包させたpm-AuNRを細胞内に投与したのちに、近赤外光を照射して光起爆する手法である。爆発による衝撃波を局所的に発生させ膜を切り開くことが出来る。本年度はカチオン性脂質を用いてHDLとRNAの結合性を高めることで、1細胞手術時のRNA導入に成功した。さらにレーザー照射法を検討することで、単位時間当たり処理細胞数を数千倍にすることに成功した。 加えて、申請時の計画を大きく発展させ、特定の条件下で脂質膜に融合・脂質を供給できるデバイスの開発にも成功した。HDLの脂質膜部分の組成を、DOPC:DPPC:CHEMS=1:2:1とし、タンパク質側の末端にTATペプチドを結合させたHDL変異体を作成したところ、弱酸性条件下(pH=5.5)選択的な高い膜融合活性をモデル膜・生細胞膜の両方に対して示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は本研究計画の基盤となる、相分離制御技術と1細胞手術法に関しての基盤技術を確立した。また膜の物性を制御する手法として、相分離制御技術に加えて膜の構成要素を外部からの脂質供給によって変える手法の確立に成功した。それぞれにおいて、論文は出版済みもしくは出版プロセスに順調に乗っている。一方、申請書に記載していたアミロイドの膜からの切除に関しては大幅な遅れが生じている。これは、2018~2019年度に加速度的に進歩した、「相分離生物学」という学問の成果により、アミロイドβ繊維を対象とっする意義に関して再考察を迫られているからである。すなわち、各種疾患の原因となるのはアミロイドβ繊維の凝着ではなく、生体内でのアミロイドβ繊維の相分離により生じる構造体であることを示唆する論文が多数報告されている。この点を踏まえ、現在、国内でのタンパク質相分離の第一人者の研究室との共同研究を打診している。さまざまな物性の脂質膜と相分離構造の相互作用を明らかにし、どのようなターゲティング・膜物性操作を行うべきなのかを調査する研究を行い、そのデータを基に研究方針を再策定する必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では「境界のない2次元構造」である脂質ラフトと、「境界をもつ3次元構造」であるエンドソームを対象とした操作方法を確立してきた。一方「境界を持たない3次元構造」である液-液相分離ドロップレット(液滴)が、第三のナノ構造として注目を浴びている。本研究の目的の1つであった、脂質膜からのアミロイドβの切除や神経細胞膜の幼若化にも関連が示唆されるナノ構造であり、例えばアミロイドーシスの原因はアミロイドβ繊維の凝着ではなくアミロイドの液滴であることが示唆されている。液滴自体や他の物質との間の相互作用を操作することが、研究目的を達成する上で必要である。今後はこの点に留意し、液滴形成の第一人者である筑波大学の白木賢太郎博士の研究室と共同研究を行う。先方からの同意はすでに取っている。液滴と脂質膜との相互作用や、液滴からの繊維などの他の構造への成長過程などを体系的に検討し、その結果を用いて、本研究を軌道方針しつつ遂行する。
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