2019 Fiscal Year Annual Research Report
中国西部四川客家エスニシティの実態化をめぐる人類学的研究
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19J14943
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
星野 麗子 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 中国 / 四川省 / 客家 / エスニシティ / 祖先祭祀儀礼 / 観光 / 龍舞 / 文化表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の調査地である中国四川省成都市龍泉驛区洛帯鎮は、1990年代から地元の研究者や中国国内外の客家ネットワークと連携して、「西部客家第一鎮」として客家をテーマとした観光開発と町作りを進めてきた。春には「火龍節」が行なわれ、夏には「水龍節」と呼ばれる水かけ祭りが行われる。その間洛帯鎮は、龍舞が舞い、観光客や劇団員で賑わいをみせる。 報告者は当該調査地で人類学的研究を進めるため、採用年度1年目は三つの段階に分けて行ってきた。第一に文献調査、第二に現地フィールド調査の整理と分析、第三に研究成果の発信である。 文献調査に関しては、中国語、日本語、英語の関連資料の調査を行い、先行研究の問題点を整理した。四川の客家に関する研究が言語学と歴史学を中心に展開されてきたことが明らかとなった。 二点目に関しては、洛帯鎮の観光場所を対象に、フィールドノート、映像などで収集できたフィールドデータを文字化したり解読を行なったりして、資料を整理すると共に、分析を行った。 研究成果の一部として、報告者は、日本、韓国、中国などで、広く口頭発表を行った。具体的には、「清明節の儀礼の実践から見た人と人との繋がり方」と題して、日本文化人類学会研究大会で祖先祭祀儀礼の内容について研究発表を行った。また、Exploring the Formation of the Sichuan Hakkas through the Analysis of Tourism Cultural Representationというタイトルで、韓国で、客家の文化表象をめぐる動向について研究発表を行った。中国では、江西から四川へと南下した人々について「從江西南遷至四川的客家人」と題して研究発表を行った。2019年度は、研究発表を中心に積極的に研究活動に取り組んできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者は、日本文化人類学会第53回研究大会(日本・東北大学、6月1日)、EAAA(East Asian Anthropological Association)(韓国・Chonbuk National University、9月28日)、第10回客家文化高級論壇(中国・江西省カンシュウ市、11月2日)などで研究成果の一部を広く発信した。 また、調査地である四川省での重要な文献である『茶館:成都的公共生活和微視世界,1900~1950』(王笛 2015 北京:社会科学文献出版社)の一部を翻訳して、四川の20世紀初期の歴史に関して、重要な情報を得られた。その他、中国の贈与に関する文化人類学の画期的研究である『礼物的流動:一個中国村庄中的互恵規則与社会網絡』(閻雲翔 2017 上海:上海人民出版社)を読了し、書評を研究雑誌に投稿し、刊行された。 他大学において、「中国における言語調査」に関する授業を受けたことで、中国での言語学の基礎知識並びに民族研究における方言研究の歴史を学ぶことが出来た。中国・四川省漢族における方言研究の資料を新たに発見できたと共に、現地のエスニック・グループを表す重要な概念となる「客家」と「土広東」との関係について、新たな視座を得ることが出来た。 2020年1月から2月にかけて、補足調査を実施する計画であったが、中国・武漢を中心に発生した新型コロナウイルス感染拡大の影響により、1月下旬に中断せざるを得なかった。このような状況に対し、SNSである「We chat」を使って調査地の人々と交流するなど、柔軟に対応することでフィールドデータを補うことができ、おおむね順調に研究が進展したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、客家をテーマとした観光開発や文化表象に焦点を当てて研究を進めてきた。そこで明らかとなったのは、客家をイメージさせる土楼の建設や伝統的龍舞の上演、客家に関する演劇、食をめぐる四川客家の表象、博物館の設立などの台頭により、客家の言説と深く結びつけられて文化表象が展開されていることであった。 2020年度は、洛帯鎮の中で、特に現地の研究者や知識人が注目するB村の清代初期に移住してきたL氏一族に研究対象を絞る。村社会での祖先祭祀儀礼を中心とした儀礼の分析を進める。具体的な内容は次の三つである。第一に、中国四川省で出版されているB村に関する文献資料を分析する。第二に、儀礼に関わる親族関係について得られたデータを基に図を作成する。第三に、祖先祭祀儀礼の主催者である宗親聯誼会に着目し、宗親聯誼会の発足した背景とプロセスについてインタビューを基に文字化する。これらの作業を通して、近年どのように祖先祭祀儀礼が変化してきたのかを考察する。そして、村社会での伝統的とされる慣習がどのように客家言説と関わって喚起されていったのか/いかなかったのかを明らかにする。 2020年からは、新型コロナウイルス感染情報に注意しながら、上記の国内外の研究発表会で得られたコメントやフィールド調査で得られたデータを整理し、分析を継続する。また、研究機関で学会発表を行い、査読付きの論文投稿を行う計画である。SNSである「We chat」などを利用して、現地のインフォーマントと連絡を取り、データを補足し、博士論文の執筆に専念する。
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