2019 Fiscal Year Annual Research Report
希土類硫酸塩の高速水和反応メカニズムの解明とそれを利用した新規化学蓄熱材の開発
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19J15085
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鎮目 邦彦 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 熱利用 / 化学蓄熱 / 無機化学 / 水和・脱水反応 / 希土類 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、産業分野から多量に捨てられている200度以下の産業排熱を有効利用できる化学蓄熱材の開発を目指し、硫酸イットリウムの多段階で進行する水和・脱水反応挙動の調査を行った。 化学蓄熱への利用可能性を評価する上では、まず従来不明であった各反応過程における相変化を解明する必要がある。そのため、種々の条件(水蒸気分圧、温度)における安定相の調査を実施した。その結果、硫酸イットリウムの水和物相としては菱面体晶硫酸イットリウム水和物(水和数は1~3)、硫酸イットリウム3水和物、硫酸イットリウム8水和物の3相を確認した。 菱面体晶相の水和・脱水反応は反応前後のホスト構造が保たれており、結晶中の空隙へ水分子がゲストとして脱挿入可能であることが見出された。菱面体晶相が示す速い反応速度という化学蓄熱材として望ましい性質は、水分子の脱挿入という反応メカニズムが起源である可能性が高いと考えられた。また、菱面体晶相の脱水・水和反応における蓄熱密度は同温度域における他の候補材料であるベータ硫酸ランタンや硫酸カルシウムよりも大きく、有望な材料である。 硫酸イットリウム3水和物は0.08気圧以上の高水蒸気分圧下において、菱面体晶相から水和生成することが分かった。従って、3水和物は利用可能な水蒸気分圧には制限があるが、大きな水和数変化を伴うことから大きな蓄熱密度を実現できると期待される。 一方、硫酸イットリウム8水和物に関しては、水和生成速度が遅いこと、熱出力時に期待される昇温幅が小さいことが確認され、実際の化学蓄熱利用には不適であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は主として①脱水・水和反応過程で生成する水和物相の同定と②各水和物相の反応温度域・反応速度・蓄熱密度の評価を予定していた。 ①は、過去の熱重量測定によって見出された、菱面体晶相の水和反応が大気程度の水蒸気分圧(0.02atm)下において多段階で進行するという実験事実に基づき、相変化の詳細を調査するために実施した。まず0.02atm程度の水蒸気分圧下における生成相として菱面体晶硫酸イットリウム水和物(水和数は1~3)と硫酸イットリウム8水和物が存在することを確認した。さらに、菱面体晶相はホスト格子への水分子の脱挿入によって脱水・水和反応が進行し、水和数としては1~3程度の不定比性を持つことを見出した。以上の結果から、菱面体晶相自体が不定比性の範囲内で多段階水和し、さらには8水和物相へと水和するという相変化が多段階反応の由来であると明らかとすることができた。 さらに、化学蓄熱は高い水蒸気分圧下で動作することも可能であるので、高水蒸気分圧下における安定相を調査した。その結果、新たな相として硫酸イットリウム3水和物が0.08atm以上で生成することを見出した。この相は水和数が大きいことから高い蓄熱密度が期待でき、また熱出力操作時には40度程度の昇温幅を示すため反応温度域の面でも有望であるとみなされた。 ②に関しては、菱面体晶相と8水和物相については反応温度域・反応速度・蓄熱密度をおよそ評価済みである。しかし、蓄熱密度についてはより高い精度で測定できる余地があるものと考えられる。一方、3水和物相については、生成する温度域・水蒸気分圧域はおよそ明らかとできたが、反応速度と蓄熱密度は未だ定量的な評価に至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、菱面体晶硫酸イットリウム水和物(水和数は1~3)と硫酸イットリウム3水和物は反応温度域・反応速度の面で化学蓄熱に利用できる可能性があると見出された。しかし、蓄熱密度の面では未だ不十分だと考えられ、更なる材料探索が求められる。 一般に、200度以下の低温で脱水可能な材料は水和反応が遅い場合が多く、このことが従来の材料探索を困難にしてきた。そこで、本研究における材料探索の指針としては結晶構造に着目する。菱面体晶相の水和・脱水反応はホスト格子への水分子の脱挿入という結晶構造に由来するメカニズムに基づいて、比較的速い反応速度で進行する。従って、菱面体晶硫酸イットリウムと類似の結晶構造を持つ材料は同じく水分子の脱挿入及び速い水和・脱水反応が期待できる。候補材料としては、類似する結晶構造を有すると報告されている9種の金属硫酸塩:M2SO4 (M = Sc, Yb, Er, Gd, Dy, Al, Ga, Fe, In)が挙げられる。これらの水和・脱水反応挙動を調査することで、優れた化学蓄熱材料探索を行う予定である。 また、この材料探索により水分子の脱挿入による脱水・水和の反応速度が速い傾向が金属硫酸塩に確認された場合には、水分子の脱挿入が可能な材料を硫酸塩に限らず広く探索することで更に候補材料を見出せる可能性があると考えている。
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