2019 Fiscal Year Annual Research Report
レーザーアブレーションによる新規合金ナノ粒子の合成とその触媒特性の評価
Project/Area Number |
19J15202
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡副 眞也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 固溶合金 / ナノ粒子 / レーザーアブレーション / 熱分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
直径100 nm程度以下のナノ粒子はバルクとは異なる性質を示し、目的の物性を制御するためにさまざまな手法で合成が試みられている。2種類以上の金属元素から構成される金属ナノ粒子を合金ナノ粒子と呼び、その中で構成元素が均一に混ざったナノ粒子を固溶体ナノ粒子と呼ぶ。近年、バルクでは混ざらない2種類の金属の組み合わせでもナノサイズ化することにより固溶状態をとることが報告されている。これらの固溶体ナノ粒子はロジウムや銀といった貴金属元素の組み合わせが主であった。これらはアルコールを還元剤として用いることで簡便に合成できることが報告されており活発に研究が行われている。一方で、非貴金属元素を含んだ固溶体ナノ粒子は非常に限定された環境下での合成が報告されているのみである。これは貴金属元素と比較すると非貴金属元素が還元されにくく簡便な合成方法が確立されていないためである。非貴金属元素をイオンの還元にとらわれずに溶液中に原子を発生させることが可能となれば、これまでに合成が困難であった非貴金属元素を含んだ新規固溶体ナノ粒子の創出へと展開可能となる。本研究では、(1)還元法では合成が困難な非貴金属を含む固溶体ナノ粒子を簡便に合成可能な手法を確立し、(2)さらに合成した新規固溶体ナノ粒子を触媒として活用することを目的としている。 本年度はバルクにおいて室温では任意の組成で固溶しないモリブデン(Mo)とルテニウム(Ru)の合金ナノ粒子の合成を行いその構造及び性質を評価した。当初はレーザーアブレーションと呼ばれる手法により対象物質を合成する予定であったが、熱分解と呼ばれる合成手法を試みたところ合成に成功した。本手法もレーザーアブレーションと同様に、イオンの還元を経由せずに固溶体ナノ粒子を合成することが可能な手法である。今年度はMo-Ru固溶体ナノ粒子の同定とその触媒特性評価を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はMoxRu1-x 固溶体ナノ粒子(x: ナノ粒子構成元素のうち、Moが占める割合)を熱分解により合成した。得られたナノ粒子はMoの割合が多くなるにつれて粒径が減少することが確認できた。ナノ粒子内のMoとRuの元素分布を確認したところ、固溶体を形成していることが確認できた。また、ナノ粒子の結晶構造はMoの割合が多い試料では面心立法 (fcc) 構造、Ruの割合が高い試料では六方最密構造(hcp)を取ることが明らかになった。さらに固溶体ナノ粒子の結晶構造はX=0.4付近で変化することが明らかになった。 MoxRu1-x固溶体ナノ粒子の触媒特性を評価するため、アルキンの水素化触媒反応を検討した。Ruは水素分子を吸着すると、表面上で水素分子の結合を開裂し水素原子を発生させる。この水素原子が基質と反応することで基質の水素化反応が進行する。この触媒反応において、Moを固溶させた際にどのように触媒反応が変化するかを検討した。合成したナノ粒子を溶媒に直接分散させ、基質添加後水素ガスを加圧することで触媒反応を進行させ、反応速度と生成物の選択性に注目した。反応速度に関しては、Ruの割合が高い組成の固溶体ナノ粒子が高い触媒活性を示したが、選択性はなく基質はすべてアルカンへと変換された。一方でMoの割合が高い組成の固溶体ナノ粒子を触媒として用いた場合、反応速度は非常に遅いが生成物の選択的にアルケンへと還元できることが明らかとなり、固溶体の形成による触媒特性の変化を観測できた。 以上から、当初予定していた合成手法とは異なるが、(1)汎用性の高い合成方法を確立し、(2)固溶化による触媒特性の変化を確認できたため、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は熱分解により合成に成功した新規ナノ粒子の液相及び気相での触媒特性を評価した。液相では還元反応において触媒活性を示したのに対し、気相では触媒活性を示さなかった。次年度は熱分解法により合成したMoxRu1-x固溶体ナノ粒子の新たな触媒機能を探索するために、カーボン粒子に担持後電極触媒として用いる。そして水素発生反応(HER)や酸素発生反応(ORR)を行う。 熱分解により固溶体ナノ粒子は粉末X線回折(PXRD)による結晶構造解析およびX線吸収(XAS)分光法の結果から格子内にMoとRu他に炭素が固溶していることが示唆されている。そのため、当初から固溶体ナノ粒子の合成手法として予定していたレーザーアブレーションでもMoxRu1-x固溶体ナノ粒子の合成を再度行い、炭素を含まない固溶体ナノ粒子の合成を試みる。そして熱分解法で合成したナノ粒子と同様の触媒反応に関して活性評価を行い炭素の有無による触媒活性効果を検討する。高い活性を示した反応に関しては電子状態計算を行い、固溶化による電子状態の変化と触媒特性の関係を考察する予定である。 さらに、実験から得られた知見を新規固溶体ナノ粒子合成にフィードバックすることにより、より高い触媒活性を有する固溶体ナノ粒子の設計・創出を目指す。
|