2019 Fiscal Year Annual Research Report
Wnt蛋白質による神経管パターニングメカニズムの解明
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19J15424
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
畠山 宙大 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | Wnt signaling / morphogen / membrane-tethered Wnt / NMP / stem cell maintenance |
Outline of Annual Research Achievements |
Wntは動物の胚発生の場において、細胞の増殖・分化・恒常性の維持などを担う。この蛋白質の特徴は発現細胞自身に細胞自立的に働くだけでなく、分泌と拡散によって周囲の細胞とのコミュニケーションに使われる(細胞非自立的に働く)点である。しかし、近年多数の研究からWntの働きは非常に局所的であることが示唆されており、その拡散の重要性については議論になっている。本研究ではマウス胚発生におけるWnt3aの拡散の重要性に着目し、膜結合型Wnt3aノックインマウスを作製することで、Wnt3aの細胞自立的な役割と細胞非自立的な役割を明らかにしようとしている。 今年度は主に膜結合型Wnt3aノックインマウスの作製と解析を行った。膜結合型Wnt3a遺伝子ホモ接合型の胎仔は、後肢より後ろ側においてWnt3a欠損マウスと同様に、中軸中胚葉の減少と神経組織の肥大を示した。この結果はWnt3aの細胞非自律的な働きが体幹部の後方において正常な胚発生に必要である事を明らかにした。一方、非常に興味深いことに、尾の先端に位置する神経中胚葉前駆細胞(神経と中胚葉の両方を生み出す前駆細胞)が少数ながら維持され続けることがわかった。つまり細胞自立的なWnt3aの働きは、このような前駆細胞の一部を維持するために十分であった。 これらの結果は、Wnt3aは神経中胚葉前駆細胞の維持について、拡散依存的な役割と、拡散非依存的な役割を持つという事を明らかにしただけでなく、膜結合型Wnt3aノックインマウスにおいて維持されている一部の神経中胚葉前駆細胞と、維持できなくなり分化した元前駆細胞の2つの運命をたどる細胞が存在する事を示唆した。幹細胞や前駆細胞集団を構成する個々の細胞の不均一性の実態とその意義については十分な研究がなく、本研究は発生における細胞集団の不均一性とシグナルの意義という思いもしなかった展開に結びつくと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.膜結合型Wnt3aノックインマウスの作製 Wnt3a蛋白質の拡散の重要性を直接的に検討するために、内在性Wnt3a遺伝子を膜結合型のものに置換したノックインマウスを作製した。マイクロインジェクション法により膜結合型Wnt3aのノックインを試みた。これらの実験は筑波大学動物資源センターにておこなった。その結果、膜結合型Wnt3aの遺伝子がノックインされているF0個体を得た。 2.膜結合型Wnt3aノックインマウスの解析 膜結合型Wnt3a遺伝子を持つF0個体と野生型マウスを掛け合わせてF1世代のマウス(膜結合型Wnt3aヘテロ接合型)を得た。このF1マウスは見かけ上、野生型と同じであった。次にF1世代のマウス同士を掛け合わせてF2世代のマウス(膜結合型Wnt3aホモ接合型)を得た。このF2マウスは興味深い表現型を示した。後肢よりも後ろ側に細胞の塊ができており、尻尾は小さいながらもその後ろにできていた。Wnt3aは胚の後方において次のような2つの機能を持つ。1)神経中胚葉前駆細胞の維持 2) 神経中胚葉前駆細胞から神経細胞への分化の抑制および、中胚葉への分化の促進。膜結合型Wnt3aホモ接合型マウスにおいて、膜結合の作用がこれらの機能に対してどのように影響しているのかを検討するために様々なマーカー遺伝子の染色を行った。その結果、以下のようなことがわかった。1.小さくなった尾の先端には神経中胚葉前駆細胞がわずかだが維持されている。2.中胚葉組織(体節)はホモ接合型マウスにおいても依然として維持されている。3.後肢よりも後ろ側の細胞の塊に相当する部分の多くは神経組織であり、野生型と比較すると拡大している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの結果から、神経中胚葉前駆細胞の維持にWnt3aの拡散(細胞非自立的な働き)が必要であるが、その一部は拡散がなくとも細胞自立的に維持されるということがわかった。現在着目しているのは神経中胚葉前駆細胞の中で細胞自立的なシグナルだけで維持されるものと、細胞非自立的なシグナルが必要なものの差はどのようにして生じるのかということである。すなわち、このような細胞の不均一性は初めから存在しているのか、あるいは最初は均一だった前駆細胞の集団が発生とともにその均一性を失っていくのかということである。より早いステージにおける神経や中胚葉マーカーの染色とともにライヴイメージングを行うことでこれらの問題に結論を出したい。 膜結合型Wnt3aホモ接合型マウスの解析から、胚の後方における拡散依存的なWnt3aの機能についてはまとまりつつある。昨年度は多くの時間を実験にあてたが、今年度はこれらの成果を積極的に発表していく。また神経管における拡散依存的なWnt3aの機能についてはまだよくわかっていない。今年度はこの解析についても計画している。
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