2019 Fiscal Year Annual Research Report
リン酸輸送体PiT2に着目した老化を制御する脳内リン酸ホメオスタシス機序の解明
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19J15479
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Research Institution | Gifu Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
高瀬 奈央子 岐阜薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 老化 / リン酸(Pi) / リン酸ホメオスタシス / リン酸トランスポーター / 血管石灰化 / 特発性基底核石灰化症(IBGC) / 脳内石灰化 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年健康寿命の延長という観点からリンと老化の関係が注目されているが、生体内でのリン酸ホメオスタシス機序の全容は明らかになっていない。リン酸ホメオスタシス機序を解明する足掛かりとして、生体内でのリン酸輸送に関与するリン酸輸送体SLC20A2の変異によって、脳内だけに異所性石灰化を引き起こす特発性基底核石灰化症 (IBGC) におけるSLC20A2の機能解析を行ってきた。 培養細胞におけるSLC20A2の発現とその調節機構についてヒト神経芽細胞種SH-SY5Y細胞を用いて検討を行った。血小板由来成長因子B (PDGF-B) の二量体であるPDGF-BBが細胞内へのリン酸輸送を促進することを見出した。また、このPDGF-BBの作用はSLC20A2 によってコードされるPiT-2には影響がなく、SLC20A1 によってコードされるPiT-1の細胞膜移行を促進させることによるものであることを示した。 臨床所見よりSLC20A2の変異を有するIBGC患者では脳脊髄液中のリン酸(Pi)が高値であることを報告されていたことから、石灰化が見られる微小血管周辺部は高リン酸状態にあると想定した。マウス大動脈平滑筋細胞であるp53LMAco1細胞を高リン酸条件下 (3.0mM Pi / 4日間) で培養し作成した石灰化誘導モデルを用いて、リン酸によって誘導される石灰化に対する酸化ストレス(ROS)の関与と抗酸化剤を用いた石灰化抑制効果を明らかにした。 本研究はSLC20A2の機能解析により多彩な神経症状を示すIBGCにおいて症状と遺伝子変異との詳細を明らかにするための重要な知見となる。この知見は脳内リン酸ホメオスタシス機序の詳細な解明、ひいては老化を制御するリン酸ホメオスタシス機序の全容解明に寄与すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
はじめにSLC20A2の機能解析を行うために、培養細胞を用いたSLC20A2のリン酸輸送能に着目した検討を行った。ヒト神経芽細胞種SH-SY5Yを用いて、SLC20A2変異によるIBGCの病態を想定した低リン酸負荷を行ったところ、リン酸輸送体関連遺伝子の発現量に変化は見られなかった。一方、血小板由来成長因子Bの二量体であるPDGF-BBが細胞内へのリン酸輸送を促進することを見出した。このPDGF-BBの作用はSLC20A2によってコードされるPIT-2には影響がなく、SLC20A1によってコードされるPiT-1の細胞膜移行を促進させることによるものであることを示した。 またIBGCに特徴的な病態として知られる石灰化についてリン酸輸送体の関与の詳細を解明するために、血管石灰化の発生メカニズムの検討を行った。臨床所見によりSLC20A2変異を有するIBGC患者において、脳脊髄液中のリン酸濃度の増加が報告されていたことから、石灰化がみられる微小血管周辺部は高リン酸状態にあると想定した。血管中膜を構成する細胞であるマウス大動脈平滑筋細胞p53LMAco1細胞を用い、高リン酸条件下 (3.0mM Pi / 4日間) で培養した石灰化誘導モデルを作成した。このモデルにおいて石灰化が誘導される過程にROSが関与することを見出した。またN-acetylcysteine (NAC), apocynin, edaravoneの3剤の抗酸化剤の処置により、高リン酸による石灰化の促進が抑制されることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
IBGCにおいて想定されるリン酸ホメオスタシス破綻に関連するリン酸輸送体の機能について解明することを目的とし、以下の実験を遂行する。 (1)PDGF-BBの作用機序の解明:細胞内へのリン酸輸送能を増加させる因子としてのPDGF-BBに着目し、PDGF-BBが細胞内へのリン酸輸送の増加にかかわる詳細な作用機序の解明を行う。PDGF-BBは様々なシグナル経路を活性化させることが報告されている。リン酸輸送能の増加に関連するシグナル経路の特定やPDGF-Bによって発現が調節される因子の同定を行う。 (2)疾患特異的iPS細胞を用いたSLC20A2の機能評価:当研究室で報告したIBGCのSLC20A2変異においては、すべての変異で患者由来iPS細胞の樹立に成功している。これらを用い、既知の報告を参考にしてiPS細胞から神経細胞へと分化する。分化させた神経細胞は神経細胞マーカーの発現により分化の確認を行う。同時に健常者由来iPS細胞からも神経細胞への分化を行い、分化効率や細胞形態の比較を行う。 (3)血管石灰化におけるリン酸輸送体の機能の解明:前年度の研究成果では、血管平滑筋細胞を用いた高リン酸誘発性石灰化モデルを作成し、石灰化の増悪に酸化ストレスの関与を報告した。このモデルを用いて、リン酸輸送体の発現の変化や石灰化の生じるメカニズムにおけるリン酸輸送体の機能について検討する。 (4) PDGF-BBの産生を増加させる薬剤スクリーニング系の確立と薬剤の探索:疾患特異的iPS細胞を分化させた疾患モデル細胞を用いて、薬剤スクリーニング系を立ち上げる。既存薬を中心として、PDGF-BBを増加させリン酸輸送活性の促進につながるような薬剤の探索を行う。 以上の研究内容より、IBGCを始め異所性石灰化におけるリン酸ホメオスタシス機構の解明と創薬開発を目指す。
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Research Products
(3 results)