2019 Fiscal Year Annual Research Report
ラジカルカチオンの強酸性を活かした新規触媒反応の開拓
Project/Area Number |
19J15525
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中島 翼 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ラジカルカチオン / 光レドックス触媒 / シリルエノールエーテル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、シリルエノールエーテル類の一電子酸化により生じるラジカルカチオンがスルホン酸と同程度の高い酸性度を示すという知見をもとに、ラジカルカチオンをブレンステッド酸触媒として利用したブレンステッド塩基性求電子剤の活性化を伴う結合形成反応の開発に取り組み、一定の知見を得た。例えば、求電子剤としてビニルピリジン類を用いることで、ラジカルカチオンによる触媒的プロトン化を伴う活性化と、ケテンシリルアセタールやケテンシリルへミアミナールから生成するアリルラジカルの間でラジカル-ラジカルカップリングが効率よく進行することを見出した。一方で、ラジカルカチオンの酸性度がケテンシリルアセタールよりも高いと計算化学的に見積もられたシリルエノールエーテルを用いた際には、ビニルピリジン類との反応はほとんど進行しなかったが、これはアリルラジカルのアリル位のスピン密度が求核性に大きな影響を与えていること示唆している。すなわち、ラジカルカチオンの酸性度が高くなるに従い、対応するアリルラジカルのアリル位のスピン密度が低下するためにこのような反応性の違いが生じたと考えている。 一方、シリルエノールエーテルから生じるアリルラジカルは安定であるために求核性に乏しく、引き続く結合形成反応を行うためには強力に活性化された求電子剤が必要であった。シリルエノールエーテルから生じるアリルラジカルの反応性を検証する中で、Lewis酸触媒を添加し求電子剤の活性化を行うことで新たな結合形成反応が進行することを見出した。具体的には、亜鉛(II)錯体あるいはB(C6F5)3を添加することで4-シアノピリジン類の活性化を伴うアリル位C-Hヘテロアリール化反応が効率的に進行することを見出した。また、銅(I)触媒の添加がアゾジカルボン酸エステルとのC-Hアミノ化の促進に有効であることも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ラジカルカチオンの強酸性を活かした求電子剤の触媒的活性化を鍵とする結合形成反応の開発を目指した。具体的にはビニルピリジン類に加え、ブレンステッド塩基性求電子剤として種々のイミンやヘテロ芳香環へのラジカル付加反応を試みたが、結合形成の進行には至らなかった。現段階では、ラジカルカチオンの酸性度の高さは十分であるが、反応活性種の濃度および脱プロトン化により生じるアリルラジカルの求核性が十分でない点に問題があると考えている。一方で、光レドックス触媒を用いたシリルエノールエーテルの化学選択的なアリル位C-H変換法という点では、Lewis酸触媒との協働触媒系により適用可能な求電子剤の拡張に成功している。従来、高いα-位での反応性のためにシリルエノールエーテルのアリル位C-Hの変換法は限定的であったが、今後、他の反応系や金属触媒を用いたカップリング反応との組み合わせを計る上で重要な知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に開発したシリルエノールエーテル類縁体とビニルピリジン類の結合形成反応は、ラジカルカチオンが触媒的なブレンステッド酸として働くことを示した重要な結果である。今後は、更なる求電子剤の探索や、計算化学的手法によるpKaの算出だけでなくアリル位のスピン密度の大きさに焦点を当てた反応結果の予測をもとにした基質適用範囲の拡大を検討する。加えて、反応性の高いシリルエノールエーテルがLewis酸触媒存在化で化学選択的なアリル位C-H変換反応が実現可能であることを示した本年度の研究成果をもとに、他の触媒反応との協働触媒系の実現を目指す。具体的には、金属触媒を用いたクロスカップリング反応や、アリルラジカルを金属中心に捕捉させることでラジカル-極性クロスオーバー反応への応用を試みる。
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