2019 Fiscal Year Annual Research Report
Characterization of dynamics and functions of antibodies
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19J15602
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
與語 理那 名古屋市立大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 抗体 / Fc受容体 / 補体 / 原子間力顕微鏡 / 溶液散乱 / MDシミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、様々な実験的手法と分子動力学(MD)計算により、免疫グロブリンG(IgG)抗体のエフェクター機能発動における動的な分子挙動を捉えることを試みた。 IgGのFc領域を対象にMDシミュレーションを実施し、溶液散乱および核磁気共鳴(NMR)の実験データに基づいてその結果を検証評価した。これにより、水溶液中におけるIgGの構造ダイナミクスを探査することが可能となった。その結果、水溶液中におけるFcの3次元構造アンサンブルは、これまでに報告されている結晶構造の多くを含んでいるものの、主要なコンフォマーの4次構造は結晶構造とは有意に異なっていることが明らかとなった。さらに、Fcに結合したN型糖鎖のフコース残基は、Fcγ受容体(FcγR)との結合に関わるチロシン残基の構造ダイナミクスを規定し、FcγRとの親和性を制御していることが示唆された。 一方、IgG分子のダイナミックな振る舞いを原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用いてリアルタイムで観測したところ、膜上の抗原を特異的に認識したIgGは自発的に規則正しいリング構造を形成し、このリング構造に対し、補体成分C1qが特異的に結合する様子を捉えることができた。こうした抗原認識を契機としたIgGの分子集合はFc領域を介していることが明らかとなっており、リング形成を阻害するプロテインAとの複合体の新規構造情報を得ることもできている。 また、HS-AFMを用いてIgGとFcγRの結合・解離を1分子レベルで捉えることに初めて成功し、両者の相互作用を定量的に評価することに成功した。FcγR上の滞在時間を比較した結果、IgG全長の方がFcよりもFcγRに対する結合能が高いことが示された。さらに水素重水素交換質量分析により、これまでIgGのFc部分で結合すると考えられてきたFcγRが実際にはFab領域とも相互作用していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はIgGが司る免疫機能の発動に関わる機能分子との相互作用に着目し、HS-AFMを中心とした物理化学的手法により、IgG分子中の新たな相互作用部位を同定することに成功している。特に、IgGとFcγRの相互作用におけるFab領域の関与を明らかにしたことと、抗原認識を契機としたIgGの自発的な6量体形成およびC1qとの相互作用に関する研究成果については、それぞれ既に論文公表している(Yanaka, S., Yogo, R., et al., 2020 ; Yogo, R., et al., 2019)。これらの成果については、国内外にプレスリリースを実施し、一部新聞報道(中日新聞社2019年8月17日朝刊)や、インターネットなどを通じたメディア配信もしており(academist Journal、研究コラム2020年2月17日)、産業界からの注目も集めている。現在、これらの成果を含めた英文総説を発表する準備も進めている。 さらに、MDシミュレーションによりIgGのFc領域のコンフォメーション空間を探査した成果を論文公開しており(Yanaka, S., et al., 2019)、今後、IgG分子全長の動的構造やその機能分子との相互作用系への展開をはかっている。 次年度には、NMR法を用いた原子レベルでのIgG分子の構造情報の取得や、溶液散乱法による水溶液中におけるIgG分子の動的な構造解析を遂行する予定であるが、それらの準備状況も順調であり、既に予備的成果を得つつある。以上の点から、研究は当初の計画以上に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究を通じて、IgG分子中に秘められた相互作用部位を浮き彫りにすることができた。今年度は、新たに見出した相互作用を担う部位に改変を施してIgGを高機能化することを目指す。 FcγRとの相互作用系については、新たに明らかとなったFabにおける相互作用部位にアミノ酸置換変異を施した変異IgGを作成し、HS-AFM等を用いた計測とともに、エフェクター細胞を用いて抗体依存性細胞介在性細胞傷害活性の評価を実施する予定である。膜上における抗原認識を契機としたIgGの分子集合機構に関する理解を深めるため、IgG分子の構造ダイナミクスに着目した分子改変を施して、補体成分C1qと相互作用するリング形成能に与える効果を評価する。 さらに、抗原の認識とともにFcγRとの相互作用の一部を担うFab領域と、分子集合を媒介しエフェクター分子との主要な相互作用部位にあたるFc領域の間の機能連関の仕組みを探究するために、溶液散乱法およびNMR法により得られる構造データとMDシミュレーションの結果を組み合わせて分子構造のダイナミクスの実態解明を推進する。 具体的には、中性子小角散乱法と重水素標識技術を組み合わせることで、抗原またはエフェクター分子との相互作用に伴うIgGの構造変化を捉える。NMR計測においては、IgGを構成するポリペプチド鎖および糖鎖由来のNMRシグナルを観測するため、部位特異的な安定同位体標識技術の開発と効率的な試料調製に向けた発現系構築を行う。これらのシグナルをもとに、原子レベルでのIgGの動的構造情報を取得することを目指す。 以上のようにHS-AFM、溶液散乱、NMR法などから得られる実験データとMDシミュレーションがもたらす情報を統合することで、IgGが司る抗原認識からエフェクター機能発動に至る分子メカニズムを探査し、さらには高機能化した抗体の開発を目指す。
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