2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J20036
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
島田 真成 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | ガラス転移 / ジャミング転移 / 弾性体理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
ガラスの限界安定性とは,ガラスが非常に小さな摂動で破壊されてしまうという性質である.これは,ガラスが液体からの急冷によって作られるということと深く関係している.これに関係して,本年度は(1)ガラスの振動状態に関する理論的研究,(2)高次元ガラスの安定性に関する数値的研究,(3)冷却過程でのガラスの安定性に関する数値的研究を行った. (1) 従来の平均場理論は,ガラスが限界安定であるとき,振動状態密度が最低周波数領域で周波数の2乗に比例することを予言する.一方シミュレーションでは状態密度が周波数の4乗に比例することが知られており,理論とシミュレーションの間には大きな違いが存在した.本研究では,従来よく用いられてきた理論モデルに内在していながら今まで見落とされてきたメカニズムによって,状態密度が周波数の4乗に比例しうることを明らかにした. (2) 従来の平均場理論が予言する状態密度の2乗則は,系の空間次元が無限大になる極限では正しいと考えられている.そこで,数値シミュレーションで高次元のガラスをつくり,振動状態を調べることで従来の平均場理論の予言を実証した.その結果,実際に高次元になればなるほど2乗則の領域が明確に現れ,その領域が広がっていくことを明らかにした. (3) ガラスの限界安定性は,ガラスが液体から急冷される過程を直接追跡することによってより詳細に調べることができる.本研究では,液体を急冷するシミュレーションを行い,その過程に現れる不安定な振動状態を調べた.その結果,急冷されている過程の液体に出現する不安定な振動状態は空間的に局在しており,その空間構造は,不安定で振動の激しいコアと呼ぶべき領域と,それ以外の弾性的に応答する領域に分かれていることがわかった.これは,今までよく研究されてきた急冷後のガラス配置に見られる振動とよく似ている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
振動状態に関する理論研究は,従来の理論の枠内でガラスの振動を説明しうることを示したものであり,高次元ガラスのシミュレーションによる研究は,理論と現実のガラスを橋渡しする上で役に立つ結果を生んだ.これらの研究が完成したことは,今後の限界安定性の研究にとって非常に重要である.また,ガラスの急冷過程のシミュレーションは,急冷途中の配置が凍結後のガラス配置によく似ていることが分かったため,従来の凍結後のガラスについての知見を用いて研究を大きく進展させることができるだろう.以上の成果から,本課題はおおおむね順調に進展していると考える.
|
Strategy for Future Research Activity |
ガラスの急冷過程の研究では,今までの調査で急冷過程の配置と凍結後のガラス配置との類似性が分かったため,これを定量的に評価する方針である.具体的には,私の以前の研究で用いられた,ガラス配置に現れる振動の局所的なエネルギーを測定する手法を用いて,急冷過程の配置の安定な領域と不安定な領域の空間構造を調べる.
|