2019 Fiscal Year Annual Research Report
ノルアドレナリン神経からのドパミン遊離機構とD5受容体による衝動性制御機構の解明
Project/Area Number |
19J20112
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
笹森 瞳 北海道大学, 医学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 衝動性 / SNRI / デュロキセチン / ADHD / ドパミン / ノルアドレナリントランスポーター / 3-選択反応時間課題 / 内側前頭前野 |
Outline of Annual Research Achievements |
【目的】高い衝動性は薬物依存、犯罪行為、自殺などの危険因子だが、臨床で使用可能な衝動性抑制薬はいまだ少ない。先行研究により、内側前頭前野ではドパミン濃度上昇によって衝動性が抑制される一方で、側坐核ではドパミン濃度上昇が衝動性を亢進させることが報告されている。そこで我々は、「内側前頭前野でドパミン濃度を上昇させ、側坐核ではドパミン濃度を上昇させない薬が衝動性抑制作用を持つ」(Ohmura et al. 2012)という仮説を基に衝動性抑制薬の候補を探索した。上記条件を満たす可能性のある薬として、セロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬デュロキセチンを取り上げ、衝動性抑制作用を検証した。さらに、その作用機序の同定も目指した。 【方法・結果】①デュロキセチンは用量依存的、かつ選択的に3-選択反応時間課題におけるラットの衝動性を抑制し、注意機能、意欲などの他の機能には影響を与えなかった。② マイクロダイアリシス-HPLC法を用いて、デュロキセチンが、内側前頭前野でドパミン濃度を上昇させ、側坐核では上昇させないか確認した。その結果、①で衝動性を抑制した用量のデュロキセチンは、内側前頭前野で細胞外ドパミン濃度を上昇させる一方で、側坐核では上昇させないことが分かった。③デュロキセチン投与後に内側前頭前野腹側部にドパミンD1様受容体拮抗薬を局所投与した結果、デュロキセチンの衝動性抑制効果は消失した。さらに、アトモキセチンを用いて同様の実験を行い、同等の結果を得た。 【結論】デュロキセチンおよびアトモキセチンは内側前頭前野の細胞外ドパミン濃度を上昇させ、ドパミンD1様受容体を刺激することによりラットの衝動性を抑制すると考えられる(Sasamori et al. 2019)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
内側前頭前野特異的ドパミンD5受容体欠損マウスを作成する予定であった。米国ジャクソン研究所よりドパミンD5受容体遺伝子がloxP配列で挟まれたマウス (Stock No: 025704)を輸入する手続きをとり、このマウスの内側前頭前野に、上記免疫染色で特定した細胞種に特異的にCreタンパクを発現する配列を有したウイルスを注入することで、内側前頭前野特異的にドパミンD5受容体を欠落させる計画であった。しかし、D5抗体の作製に再三挑戦するも、なかなか難しかった。そのため、CRISPR-Cas9システムを用いて内側前頭前野特異的ドパミンD5受容体欠損マウスを作成する計画に変更し、既に基礎検討を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
DBH翻訳開始部位にtTA配列を組み込んだマウスを共同研究者の田中謙二准教授(慶應大学)より譲受する。beta-actin下流にtetO-ChR2-EYFPを組み込んだマウスは既に保有している。これらのマウスを交配し、期待している通りにノルアドレナリン神経特異的にChR2を発現しているか組織学的に確認する。なお、tTAとtetOの仕組みを用いた細胞種特異的ChR2発現は、所属研究室では別の系で既に成功している(Ohmura et al. 2014, Int J Neuropsychopharmacol)。このマウスの内側前頭前野を光刺激することで、同部位で細胞外ドパミン濃度が上昇するか、in vivoマイクロダイアリシス-高速液体クロマトグラフィー法で検証し、デュロキセチンで上昇するドパミン濃度と同程度になる照射方法を検討する。さらに、この照射方法で衝動性が抑制されることを確認する。
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