2019 Fiscal Year Annual Research Report
Chiral electromagnetism and quantum anomaly in Weyl/Dirac superconductors
Project/Area Number |
19J20144
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松下 太樹 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | トポロジカル半金属 / 超伝導 / 非エルミート / 熱輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、Dirac電子系におけるカイラル電磁気応答に取り組み、新奇物性を開拓することを目的としている。今年度は、上記研究課題のうち(1)ノーダルライン半金属におけるカイラル電気応答、(2)Weyl超伝導における外因的機構由来の熱Hall効果、(3)Weyl/Dirac半金属における不純物由来の非エルミート物性、の三つの課題に取り組んだ。以下、順に報告を行う。 (1) ノーダルライン半金属における動的カイラル電気応答を研究し、トポロジカル圧電効果を提唱した。トポロジカル圧電効果は緩和時間によらず、低温、低周波数極限で量子化するトポロジカルな輸送現象である。この我々の提案は、ノーダルライン半金属におけるトポロジカル輸送の初めての理論提案であり、この物質の基礎的な物性に当たるため重要である。 (2) Weyl超伝導における外因性機構による熱Hall現象を準古典理論で解析した。特に、Weylノードのみを持つ三次元カイラルp波超伝導と、Weylノードに加えてラインノードを有するE1uカイラルf波超伝導の解析を行い比較することで、外因性機構による熱Hall効果におけるノードの役割を研究した。解析の結果、ラインノード近傍の準粒子の寄与とWeyl点近傍の準粒子の寄与が一部相殺することが明らかになった。この研究を通し、ラインノードが外因的機構による熱Hall伝導の抑制することが明らかとなった。 (3) Weyl/Dirac半金属の不純物効果について取り組んだ。特に、Liang-Fuグループによって提唱された準粒子ハミルトニアンによる定式化によって、擾乱によって誘起される非エルミートトポロジカル欠陥が生じる条件を徹底的に議論した。その結果、これら3次元トポロジカル物質では不純物の性質の詳細に依らずに、例外点リングのようなトポロジカル欠陥を生じることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
我々は、次の三つの課題に取り組み、そのそれぞれで重要な結果を得ることができた。 (1)ノーダルライン半金属におけるトポロジカル輸送の理論提案:ノーダルライン半金属は1次元Fermi線を有するトポロジカル半金属で広く研究されてきた。しかし、この物質のトポロジカル性がどのようにして現象に現れるかは明らかにされていなかった。我々はこの問題に取り組み、ノーダルライン半金属では、電気応答ではなく、圧電効果によってそのトポロジカル性が現れることを明らかにした。 (2)Weyl超伝導の外因性熱Hall効果の解析:我々はWeyl超伝導の外因性熱Hall効果を研究し、発展させた。特に、ラインノードとWeylノードが両方存在するような超伝導における外因性熱Hall効果を研究し、ラインノードの寄与が、Weylノードと逆符号を持つことを見出した。二種類の準粒子が逆符号で熱Hall効果に寄与することで、ラインノードによって準粒子の数が増える一方、増えた準粒子の寄与によって熱Hall効果が弱められることを明らかにした。 (3)トポロジカル半金属における不純物由来の非エルミート物性の理論研究:近年Liang-Fuグループにより提案された「準粒子ハミルトニアンの方法」は、平衡系でも非エルミートなトポロジカル現象を生じ得る可能性を提示した。これを受け、我々は3次元トポロジカル半金属で不純物由来の非エルミートトポロジカル欠陥を生じる条件を検討した。その結果、例外点を生じるに当たり磁性が必要な2次元系とは対照的に、3次元トポロジカル半金属では不純物の詳細に寄らずに、例外点が現れることが明らかとなった。 以上のように当初の予定を超え、一年で複数の課題に取り組み、そのそれぞれで重要な結果を得ている。以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はノーダルトポロジカル物質においてトポロジカルな性質が、いかにして物理現象に現れるかという問題について取り組む。研究目的を達成するにあたり、前年度の研究取り組んだ研究テーマの発展として、以下の2つのテーマについて取り組む:(1)時間反転対称性の破れた超伝導体における熱輸送現象、(2)ノーダルライン物質における量子異常現象。前者は準古典極限の寄与を超えた熱Hall効果の微視的機構や熱磁化流の不純物効果に着目して研究を行う。後者は、ノーダルライン物質のカイラル磁気応答に着目して研究を遂行する。以上のテーマを継続する他に、(3)スピン3重項超伝導におけるスピン拡散伝導、(4)トポロジカル超伝導における熱スピン応答にも取り組む。これらの研究テーマは、近年盛んになってきた超伝導体へのスピン注入の実験研究を後押しし、超伝導体におけるスピントロニクス現象を解明することことを目的として研究を進める。
テーマ(1)に関しては、Kubo理論に基づくダイアグラム計算の手法を用いて解析を行い、既に予備的な結果を得ている。テーマ(2)に関しては、カイラル電気応答の研究で共同研究を行ったA.Schnyder教授と協力して研究を行う。テーマ(3)は、近年盛んになってきた超伝導体へのスピン注入の実験研究を、理論の立場で後押しすることと、超伝導におけるスピントロニクス現象の開拓の両方を狙った研究テーマである。これに関してはBoltzmann方程式やUsadel方程式を用いた解析を行う予定である。テーマ(4)は、「時間反転対称性を有するトポロジカル超伝導体を特徴付ける物理現象は何か」という観点で研究を行う。ここでは、ヘリカル超伝導におけるスピンゼーベック効果に着目して研究を行う。特に、動力学論に基づく不純物散乱による機構と、Kubo理論による種々の寄与を系統的に調べる解析の両方を検討したい。
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Research Products
(5 results)