2019 Fiscal Year Annual Research Report
含窒素π拡張型カーボンナノ材料を前駆体に利用した非貴金属カーボン触媒の創成
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19J20297
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松元 香樹 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 固体高分子型燃料電池 / Fe/N/C触媒 / 酸素還元反応 / 鉄錯体 / 焼成 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体高分子型燃料電池は、環境・エネルギー問題を解決する技術であり、性能向上にはカソード極における酸素還元反応(ORR)を促進する触媒が不可欠である。特に鉄と窒素源をカーボン担体に担持、焼成により調製されるFe/N/C触媒は、高いORR活性を示すことが知られており、燃料電池への応用が期待されている。本研究では、触媒前駆体である含窒素化合物の化学構造に着目し、活性点であるグラファイト構造中のFe-Nx構造を精密かつ効率的に構築することにより触媒活性の向上をめざしている。今年度は焼成時に起こる前駆体のグラファイト化を踏まえた分子設計を行い、5,6,7,8位に芳香環を有する[1,12]ジアザトリフェニレンを配位子とした鉄錯体([Fe(TDAT)3]Cl2)と芳香環部位にブロモ基を導入した類縁体([Fe(pBr2-TDAT)3]Cl2)を触媒前駆体として設計した。配位子骨格中に規則的に芳香環を配列することで、焼成時に分子内環化が誘起されると共に、ブロモ基が均一開裂することで生じるラジカル種同士のカップリングがグラファイト化を促進し効率的にFe-Nx構造が構築される。また、焼成による触媒調製では鉄凝集体が発生し活性点形成を非効率化する原因となるが、新たに設計した配位子は、嵩高さに加えて高い熱耐性を付与しているために、鉄イオンの凝集を抑制することが期待される。以上の作業仮説のもと、触媒前駆体である鉄錯体の合成、触媒の調製、分光学的手法や元素分析、電子顕微鏡観察よる構造同定、及び、ORR活性評価を実施した。結果として、Fe(pBr2-TDAT)3]Cl2を前駆体に利用することで、Fe-Nx構造が効率的に構築され、高いORR活性を有するFe/N/C触媒が調製されることを確認した。これは触媒前駆体の分子構造の精密設計が焼成時に構築される活性点構造の生成に大きく寄与することを示唆する結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、焼成処理により調製されるFe/N/C触媒の活性点形成過程を、前駆体の分子設計により制御し、Fe-Nx活性点構造を効率的に構築することで、酸素還元活性を向上することを目的とする。具体的には、前駆体のグラファイト化を踏まえて設計した5,6,7,8位に芳香環を有する[1,12]ジアザトリフェニレンを配位子とした鉄錯体([Fe(TDAT)3]Cl2)に加えて、配位子への置換基導入により熱耐久性や配位様式を制御し、活性点の構築に適した前駆体構造を探索する。本年度は、鉄錯体([Fe(TDAT)3]Cl2)、および配位子にブロモ基を含む鉄錯体([Fe(pBr2-TDAT)3]Cl2)を合成し、触媒調製、構造同定、活性評価を実施した。前駆体の熱耐久性を熱重量測定により評価した結果、[Fe(pBr2-TDAT)3]Cl2が高い耐久性を有し、焼成後、前駆体の構成成分の70%以上がカーボン成分として残留した。即ち、ブロモ基の熱的開裂により生じるラジカル種のカップリングが前駆体のグラファイト化を促進したことを示唆する。次に合成した鉄錯体を用いて触媒を調製した。X線回折法および高分解能透過型電子顕微鏡観察では触媒中に鉄凝集体は確認されず、鉄原子がカーボン担体上に高分散していることを明らかとした。また触媒中に含まれる鉄に配位した窒素の絶対量をX線光電子分光法および元素分析より評価したところ、[Fe(pBr2-TDAT)3]Cl2を前駆体とした時に多くの鉄に配位した窒素が存在する(0.34重量%)ことが明らかとなり、また回転リングディスク電極法により、高い酸素還元活性を有することが確認された。 上記のように、触媒活性向上に向けた前駆体の構造探索を展開するうえで、基点となる鉄錯体の合成から、触媒調製、構造同定、活性評価までを実施しており、当初の研究計画に基づいて概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、より高活性なFe-Nx活性点構造の構築方法を探索するために、[1,12]ジアザトリフェニレン骨格の2または10位に、配位性のピリジン環やカルボキシラート、または嵩高い置換基を導入することで、[Fe(pBr2-TDAT)3]Cl2とは異なる配位構造をした鉄錯体を合成する。合成した鉄錯体はX線結晶構造解析により構造を同定する。今年度に実施した手法で触媒調製、構造同定および活性評価を同様に実施し、前駆体構造の違いが焼成後に構築される活性点構造および、酸素還元活性に与える影響を評価する。さらに、X線吸収分光法により鉄原子の価数および、第一、第二配位圏に存在する化学種の同定を行うことで、より詳細な鉄および窒素原子により構成される活性点構造に関する知見を得る。得られた知見を鉄錯体の設計にフィードバックし、より高活性なFe/N/C触媒を与える触媒前駆体の開発に挑戦する。 本研究で得られる成果は、白金代替を目指す非貴金属燃料電池カソード触媒の開発に貢献するだけでなく、活性サイトの精密構築が達成された際には、カーボン触媒の多様な反応への応用に発展にも大きく貢献すると期待される。
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Research Products
(5 results)