2019 Fiscal Year Annual Research Report
鳥類血液寄生原虫を指標とした越境性感染症の分布動態の解明
Project/Area Number |
19J20367
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
犬丸 瑞枝 日本大学, 獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 血液寄生原虫 / 鳥マラリア / 越境性感染症 / 保全医学 / 渡り鳥 / 蚊 / ベクター媒介性感染症 / 感染動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
鳥類血液寄生原虫は世界各地に分布するベクター媒介性感染症であり、一部の鳥種において強い病原性を示すことが知られている。また、ベクターおよび宿主動物の生態に強く依存することから類似する感染様式を示す他のベクター媒介性感染症における感染動態の解析モデルとなると考えられる。 長距離を渡る鳥種からの血液寄生原虫検出結果に基づき、遺伝子情報を用いた伝播経路の推定および計測値の統計解析を用いた原虫による身体的影響について検討を行った。鳥種による伝播地域や暴露される原虫相に違いがあることが示唆され、病原体の運搬に強く関係していると考えられる。また、原虫感染による尾羽やふ蹠長への影響は確認されなかった。 鳥類の保全に極めて重要な役割を担っている鳥類傷病保護施設では、保護鳥類は症状に応じて長期間滞在するため、渡り鳥などは通常暴露されない原虫種に感染する可能性がある他、本来生息しない地域に新たな原虫種を移入させてしまう可能性がある。保護施設における血液寄生原虫感染リスク評価を行うために2019年6月から2020年3月の間、千葉県の保護施設にて鳥マラリアのベクターである蚊の捕集調査を行った結果、6種2,830頭の蚊が捕集された。鳥マラリアの代表的なベクターであるアカイエカ群は2,347頭ともっとも多く捕集され、保護鳥類とアカイエカ群の間で伝播が行われている可能性が示唆された。また、捕集されたアカイエカ群には、形態的には極めて類似しているが大きく生態が異なるアカイエカおよびチカイエカの両種が混在していたことを分子生物学的に明らかにした。 これまでにペンギン類における鳥マラリア原虫の感染は数多く報告されているが、初めてHaemoproteus属のガメトサイトが血液塗抹にて確認され、初めてペンギン類がHaemoproteus属をヌカカ経由で他の個体に伝播する感染源となる可能性があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長距離を渡る鳥種において血液寄生原虫の保有状況を明らかにすることができ、評価した項目において形態的な影響は見られなかった。また、それぞれの鳥種から検出された原虫種構成から分布や渡り経路に応じた原虫相の違いがあることを示唆することができた。こちらについて学会発表を行うことができた。 また、傷病鳥類の保護施設における血液寄生原虫感染リスク評価のために蚊の捕集調査を10カ月にわたり行い、6種2,830頭の蚊を捕集することができた。その内、2,347頭は鳥マラリアの代表的なベクターであるアカイエカ群であったことからリスク評価を行うために十分なサンプル数を得ることができたと考えられる。また、季節象徴についても評価することができた他、吸血蚊を数多く捕集することができた。 加えてペンギン類から鳥マラリアに類似するHaemoproteus属を初めて検出された。単独感染であることを裏付けるためにMultiplex-PCRを行い、これまでに検出された国内の野鳥と比較することで感染経路の推定を行うことができた。こちらについて現在論文を準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
傷病鳥類の保護施設で捕集された蚊の原虫保有状況についてPCRを用いて解析を行う。季節象徴などに加え、分子系統関係を解明し、これまでに調べられてきた同施設の傷病鳥類が保有する原虫種と比較を行う。また、吸血源についてもPCRを行い、感染リスク鳥種について検討すると同時に蚊の吸血活動について解明する。アカイエカ群には形態的に鑑別が困難な2種が含まれているが、生態が大きく異なることからこの2種の鑑別もPCRにて行う。 海洋島に生息する野鳥における鳥類血液寄生原虫およびポックスウイルスの検出を行い、島の生態系への影響と関連付けて解明していく。また、島における鳥類の生態や原虫遺伝子解析を組み合わせて原虫の移入経路の推定を検討する。
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