2019 Fiscal Year Annual Research Report
Grammar description of the Isen dialect, Tokunoshima, Amami
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19J20370
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
加藤 幹治 東京外国語大学, 総合国際学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 記述文法 / 言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「徳之島伊仙方言の記述文法作成」である。伊仙方言は未だに文法全体の体系が記述されていない言語であるが、消滅の危機に瀕している。本研究は伊仙方言の実態を調査・記述し、他の研究者が参照できる文法書を作成することを目的とする。 当該年度には、学術論文2本発表、口頭発表2回、現地調査を3回行った。以下、各研究成果の概要と意義を述べる。 論文の1本目では、伊仙方言の全体像を捉えるための簡易的な文法概説を記述した。これまでの伊仙方言の研究は個別の文法現象が中心で、方言全体の体系を捉えるものは、申請者自身の研究を除きほとんど存在しなかった。本研究は新たに得られたデータを再解釈し、伊仙方言の包括的な文法を提示した研究として評価できる。次に、2本目の論文では、伊仙方言の動詞活用体系の記述と資料の提示を行った。この研究は、これまでに報告されてこなかった動詞形式の記述を行い、動詞活用体系の新たな解釈を提案した研究として評価できる。 口頭発表の1本目では、伊仙方言の格助詞のシステムを分析した。無助詞現象とよばれるもの、すなわち「雨降った」から格助詞のガが抜けていると見られる現象、が伊仙方言でも見られることを報告し、そのメカニズムを分析した。主格助詞の出没がどのような環境に左右されるかは言語学や日本語学で注目される話題で、本研究ではこのテーマに新たな解釈を提示した。口頭発表の2本目では、伊仙方言の動詞形態論について報告した。従来行なわれてきた分析に新たなデータを加え、より良く新しい分析案を提示した。 徳之島の現地調査は、計3回行った。論文・口頭発表に用いたデータの収集に加え、語彙調査と談話資料の収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、当初の予定では、記述文法執筆のための下準備の段階と位置付けていた。具体的には、(1)先行研究のレビュー、(2)既存の記述の見直しと修正、(3)データ収集である。以下、各項目についての進捗状況を述べる。 (1)同じような分野先行研究、すなわち未記述言語の記述文法をレビューした。それによって、伊仙方言の記述文法ではどのような章立てで、どのような内容を記述するべきか精査した。(2)申請者がこれまで得ていたデータとこれまでに発表した成果の見直しを行った。その結果、新たに得たデータと分析を元に、文法概説を執筆した。(3)文法記述を行うためのデータを収集し、また、語彙調査と談話資料の収集を行った。得られた語彙資料と談話資料のは当初予定していた分量に達することができなかった。 以上に述べたように、語彙・談話資料の収集が遅れ気味である点以外は、2019年度に予定していた目標は達成したと言える。 一方で、2019年度末からCOVID-19の影響により現地調査を行うことができず、当初予定していた調査旅行を2回断念した。これにより、データ収集が遅れており、年度末から年度始めにかけての予定を消化することができなくなっている。 以上のように、2019年度の予定は概ね達成したものの、年度末から計画の達成が徐々にうまく進まなくなってきている。これらの点を鑑みて、やや遅れているとの自己評価を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度まは研究計画を概ね遂行したため、今年度は当初の予定通り計画を遂行する予定であった。ところが、COVID-19の影響により 現地へ調査旅行ができなくなった。このため当初の予定を変更し以下のような研究を行う: (1)既存のデータを用いた研究, (2)Webでデータ収集が可能な研究。また、COVID-19の影響が十分に減じたと判断された場合、従来の計画を遂行する。 (1)伊仙方言の言語データ(辞書、コーパス)は、管見の限り申請者がこれまで収集したものの他には目立って大部のものは無い。しかし、島内の他方言についてはデータを入手することができる。例えば、天城町浅間方言に関して『徳之島方言二千文辞典』(岡村隆博編著, 2009, 徳之島方言の会)や、徳之島町尾母方言に関して『徳之島尾母方言集 』(徳富重成編, 1975)など。これらの資料を用いて、徳之島の方言全般に関して多量のデータから傾向を探る。具体的には、主格助詞の出現環境の探求と、音声出現頻度の分析を行う。主格助詞はこれまで加藤幹治(2019)「徳之島伊仙方言の主格(対格)標示における諸問題」などで扱ってきた問題であり、コーパス研究という新たな手法を用いて未解決の問題に挑む。音素頻度の分析は沢木元栄(2 014)『徳之島方言の音節頻度表から何が分かるか』信州大学人文科学論集 (1), 75-82.などが扱っているが本研究ではこれに対し音韻類型論の立場からの分析を加える。 (2)Web通話サービスを用いて言語データの収集を行う。本来の今年度の研究計画の一部をこれにより遂行する。具体的には、語彙収集と統語 論の調査を行う。申請者自身の研も含めこれまでの徳之島方言の研究では統語論はあまり記述されなかったが、本年度は未記述の文法項目に注目して調査を行う。
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Research Products
(4 results)