2020 Fiscal Year Annual Research Report
陰イオンガス三次元飛跡検出器を用いた方向に感度を持つ暗黒物質探索実験
Project/Area Number |
19J20376
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石浦 宏尚 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 暗黒物質直接探索 / ガス検出器 / 低放射能技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来用いられてきた暗黒物質による信号の季節変動を検出する従来手法よりも確実な探索手法である、「到来方向に感度を持つ手法」で暗黒物質を探索することが本研究の目的である。 現在、暗黒物質によって反跳させられた原子核の飛跡を捉えることで暗黒物質の到来方向についての情報を得ることが可能なガス飛跡検出器を用いた暗黒物質探索実験NEWAGEを行っているが、現状の課題として、検出器材料に含まれる放射性不純物由来の背景事象によって感度が制限されていることが挙げられ、この背景事象の低減が求められている。今年度は、低バックグラウンド検出器の開発および評価、大型かつ陰イオンガス三次元飛跡検出器の運用に向けた開発、検出器の低エネルギーしきい値化に向けた研究の大別して3つの項目について取り組んだ。低バックグラウンド検出器の開発および評価として、飛跡の読み出しに用いている検出器μ-PICの低放射能化に向けた開発および試作機の評価を行ってきた。大型かつ陰イオンガス三次元飛跡検出器の運用に向けた開発では、事象に伴って生じる複数種の陰イオンの到達時間差から事象の絶対位置を決定し、検出器由来の背景事象を除去できる陰イオンガス検出器の研究開発を、大容積化することで探索に用いるターゲットである原子核の数を増やすことを目的とする大型ガス検出器開発と併せて行ってきた。また検出器の低エネルギーしきい値化を達成するために、従来よりもガス圧を低圧にすることで飛跡を伸ばし、しきい値を下げるための研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今まで用いていた検出器は内部にU/Th 系列の放射性不純物を含むガラスを使用していたため、そこから生じるラドンおよびその娘核種が暗黒物質探索の背景事象源になり得た。本年度は放射性不純物の量を低減した検出器の製作および評価を行った。作成した検出器では、今まで放射性不純物が含まれるガラスを使っていた部位の部材を石英ガラスクロスに替えることで、放射性不純物の量を1/00以下と低バックグラウンド化することに成功し、また検出器としての動作を確認した。 大型陰イオンガス三次元飛跡検出器について、検出器に含まれる放射性不純物由来の背景事象を低減しつつ大容積化を達成する手法として前年度から引き続き開発を進めてきた。陰イオンガス三次元飛跡検出器(陰イオンガスTPC)は複数種の陰イオンのドリフト時間差から事象の絶対位置を決定することができ、こうした検出器付近の背景事象を座標情報を用いることで除去できる。今年度は大型陰イオンガスTPCの開発および安定して運用するためモニタリングシステムについての開発を行った。具体的には、TPCとして動作させるために高い電圧をかけるための試験及び放電対策を行い、またガス圧や重量などについてセンサーなどを用いて長期に渡って安定してモニタリングできるシステムなどの構築を行った。電圧印加についてはまだ対策が必要であり、今後の課題である。 検出器の低エネルギーしきい値化のための研究として、従来までNEWAGEでは探索に用いるガスの圧力を 76 Torr (1気圧 = 760 Torr)に設定して探索を行ってきたが、今年度はガス圧を 60 Torrに下げることで原子核飛跡が76 Torr時に比べて伸長するかどうかの確認を行った。結果として、原子核飛跡の伸長を確認し、ガス圧を下げることで原子核飛跡が伸び、それによりエネルギーしきい値を低下させることができることを確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
検出器の低バックグラウンド化については、今後詳細に検出器としての性能、低バックグラウンド化の達成などの評価を行っていき、次のバージョンである検出器の製作に向けたフィードバックを行って更に低バックグラウンドかつ実験への要求を満たす検出器を製作し、暗黒物質直接探索実験に用いるための検出器としての開発をさらに行っていく予定である。 大型陰イオンガス三次元飛跡検出器については、来年度以降、放電対策をした上で電圧印加の試験を行って高い電圧印加を達成してTPCとしての動作試験および動作を達成することを目標としている。また、長期的に検出器の動作をモニタリングするシステムを統合することで、安定して長期間観測し続けられる検出器のシステムとして完成させる予定である。その後神岡地下へと検出器を移動させ、暗黒物質探索実験を行う予定である。 検出器の低エネルギーしきい値化のための研究では、今後更にガス圧を低下させた条件での測定を目指しており、電圧値の最適化やその条件でのシミュレーションを行っていく予定である。また同時に、今度低エネルギー側での背景事象低減のために、今現在銅を用いているが、新たに設置するシールドについての研究開発も行っていく予定である。
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