2020 Fiscal Year Annual Research Report
Thomas Aquinas' Theory on membership and actions in Church
Project/Area Number |
19J20400
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
波多野 瞭 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | キリスト教 / 西洋思想史 / 制度 / 秘跡 / 共同体 / 中世哲学 / 教会 / トマス・アクィナス |
Outline of Annual Research Achievements |
主に、13世紀の論者による司祭の「権能」と秘跡の「霊印」との関係(ないしは関係の不在)の理論化のプロセスを比較検討した。この作業の意図は、聖職者の位階区分を権能の区分と紐付ける、1220年代に発生し、40から50年代にほぼ確立された見解に関し、これが同様に「区分」に関わる霊印に関する理論とどのような関係を持つかを検討することで、教会の構成員の区分に関する全体的な見通しを立てることであった。 概ね次のことが明らかになった。トマスの権能論-霊印論の特徴は、第1に権能と霊印を同一視することで議論を単純化する点に存する。これは先行研究でも明らかにされていたが、今年度はこの態度が含む新たな困難を見た。特に、権能なしでも可能に見える行為に紐付けられる権能が一体何を可能たらしめる要素なのか、という点が問題として析出された。第2に、トマスの議論は、恩寵に関する議論を一旦遮断し、霊魂に付加される権能=霊印により区別された構成員が特有の行為を実践する場としての教会の側面を強調する。昨年までの成果も勘案するなら、ヘールズのアレクサンデル以来、聖職者集団に関して権能に基づく行為を重視する(恩寵を一旦留保し、教会を謂わば形式化する)傾向が一般化していたところ、トマスは権能と霊印を同一視し権能の範囲を拡張することで、この傾向を推し進める。第3に、構成員の区別に対する確信の問題につき、トマスは霊印=権能に対し人間が持つ確信を全的に保存しようと試みるが、同時代の神学者は幾分消極的で、権能に対する確信を保存しようと試みる際にも人間の認識を離れた実在的な領域で保存しようとすることさえある。 当初の予定からすると、この点を秘跡論の全体との関係において論じる作業と、高位聖職者論と関連付けることが、次年度において求められることになる。無論その中で、論じ残された問題も扱われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度中、指導委託制度を利用し、ストラスブール大学(フランス)で研究を遂行した。パリ高等研究実習院やヴェネツィア大学の研究者とも連絡をとりつつ、日本国内で入手困難な文献を現地で収集し、概ね期待通りに研究を進展させている。特に先行研究の希薄な、網羅的に情報を収集し整理しなくてはらない範囲について、的確に限定を施しつつ作業を遂行している。新型コロナウィルス感染症の流行に伴う図書館の閉鎖期間が長かったため、とりわけ雑誌論文の収集に一定の問題が生じたが、過年度の研究活動の蓄積から、大きな問題にはなっていない。本年度分の作業のうち、研究課題に直接かかわる部分についてはフランス語で準備され、規模の大きな論文の一部とされる予定である。作業は期待通り進んでいるものと評価される。
|
Strategy for Future Research Activity |
予定通り、秘跡論全体への拡張と、高位聖職者論を扱う。文献については概ね入手済みである。
|