2020 Fiscal Year Annual Research Report
Mechanisms for sharing timing-information among tissues in Arabidopsis thaliana
Project/Area Number |
19J20421
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上本 恭平 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / 概日時計 / 時間情報 / 長距離シグナル / 無機イオン |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の概日時計は生体内の多くの反応を制御する機構である。植物は組織・器官レベルで保持されている時間情報を伝達することで、個体レベルでの統合を行なっていることが知られている。しかしながら、その詳細なメカニズムや意義については不明な点が多い。植物がどのようにして個体レベルで協調的な成長を行なっているかを理解するため、本研究では地上部と根といった器官間での時間情報の伝達に着目して研究を進めている。 前年度までの研究結果から、恒明条件下においても道管液中カチオン濃度が振動していることを確認しており、この振動にはAHA1が関与することを明らかにした。さらに欠乏培地を用いることで、カチオン濃度の振動が消失し、同時に概日時計の周期安定性が低下することを明らかにした。一方で、用いた欠乏培地条件では他の多くの生理機能に影響を及ぼしている可能性が残っていた。そこで本年度の研究では、カチオン濃度の変動が根から地上部への時間情報伝達に寄与していることを詳細に解析するため、接木を用いた解析を行った。前年度の研究でaha1変異体では、道管液中カチオン濃度の変動が消失している一方で、欠乏培地を用いた実験と比べてカチオンの取り込み量の低下は小さかった。aha1を用いた接木の実験により、地上部における概日時計の周期安定性には道管液中カチオン濃度の変動が重要であることを明らかにした。加えて、前年度の結果より根のPRR7がAHA1の発現を抑制することが確認できていたため、PRR7過剰発現体での道管液カチオン濃度の変動を解析したところ、aha1変異体と同様に振動が消失していた。またPRR7過剰発現体を用いた接木の実験によって、aha1と同様に地上部における概日時計の周期安定性が低下することが確認できた。以上のように、根のPRR7とAHA1を介したイオンの取り込み制御が概日時計の周期安定性に寄与するという結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
接木などの新たな実験系を導入することで、根のPRR7とAHA1によって形成される道管液カチオン濃度の変動が地上部における概日時計の周期安定性に寄与していることを明らかにした。また特定の時間で短時間のカリウム投与を行うことで、概日時計の周期安定性が回復することが分かった。このことはカリウムが時間特異的に概日時計の安定性に寄与することを示している。また光合成阻害剤を用いてスクロースの輸送を阻害することによっても道管液カチオン濃度の変動が消失、周期安定性が低下することを明らかにした。地上部からのスクロース輸送が根からのカチオンの取り込みに影響していることを確認した。 また概日時計の周期安定性がどのようにして生み出されるかを明らかにするため、数理モデルを用いた解析を既に始めており、予備的なデータを得ている。 以上のように、地上部と根の概日時計間での時間情報伝達のメカニズムの解明に近づいており、またその生物学的意義の解明にも近づいている。これらは当初の予定通りに研究が進んでいることを示す。
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Strategy for Future Research Activity |
地上部と根の概日時計が時間情報を共有することで安定性が増すのではないかと考えた。実際、先行研究からより多くの振動子が結合することで安定化することが知られている。そこで概日時計の周期安定性がどのようにして生み出されるかを明らかにするため、数理モデルを用いた解析を行う。実際の環境条件や、先行研究から明らかとなっている地上部と根の概日時計の特性を考慮して、モデルを構築する。構築したモデルを用いることで、地上部と根の概日時計が結合することでどのように安定性を生み出しているかを明らかにする。 加えて、様々な栄養欠乏培地やパルス実験を行うことで根から地上部への時間情報伝達に関わるイオンの特定を目指す。既にカリウムの添加実験を行うことで概日時計の安定性を回復できることを既に明らかにしており、これを応用することで概日時計の安定性がどのような生物学的意義を生み出すかを明らかにする。 また以上の結果を踏まえて論文投稿を行う。
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