2020 Fiscal Year Annual Research Report
非筋ミオシン活性の可視化と光操作による細胞分裂制御機構の解明
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19J20538
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
山本 啓 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ミオシンII / 光遺伝学 / 細胞分裂 / 細胞骨格 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、アクトミオシン細胞骨格が生み出す収縮力を弱める新規光遺伝学ツールであるOptoMYPTシステムの改良に取り組んだ。これまでに、ミオシン軽鎖の脱リン酸化酵素の調節サブユニットとして知られるMYPT1のPP1c結合ドメインを既存の光遺伝学ツールと組み合わせることで、内在性PP1cの細胞内局在を青色光照射特異的に操作することに成功している。本年度は更なる改良のため、使用する光遺伝学ツールや、PP1c結合ドメインの局在化タンパク質の検討を進めることで、長時間に渡る細胞内局所的な目的タンパクの集積を実現した。これにより、分裂過程における極領域や遊走細胞におけるラメリポディアなどに対し局所的な光照射を行うことで、細胞内局所的なミオシンの脱リン酸化が可能となった。さらに、牽引力顕微鏡や免疫染色、ウエスタンブロッティングにより本ツールの特徴づけを一通り完了した。 さらに、OptoMYPTシステムを細胞質分裂の機械的な制御機構の理解に向けて応用するため、分裂過程における局所的な光照射条件の検討を行った。両極に対する持続的な光照射により環収縮の速度が加速したことから、収縮環の生み出す収縮力に対し細胞表層の張力が負に寄与していることが明らかとなった。本研究結果は、表層張力が分裂過程における細胞形態を保持するために重要である反面、収縮環の減速を招く諸刃の剣であることを意味しており、表層張力と収縮環の収縮力の厳密な制御が安定的な分裂を可能にしていると考えられる。今後は細胞内収縮力を高める既存の光遺伝学ツールであるOptoRhoGEFを使用し、分裂中の細胞へ適用することで、表層張力や分裂速度に対し逆の作用が見られるかどうかを確認する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで開発してきたOptoMYPTシステムは、青色光を用いた光遺伝学ツールとして一般的なCRY2-CIBを基に設計されており、MDCK細胞に対するトランスフェクション効率の低さや、CRY2の凝集等により再現性よく細胞形態の変化を誘導することが困難であった。そこで本年度は、エレクトロポレーションによる遺伝子導入の検討を行い、光遺伝学ツールを高効率に発現させることができた。さらに、CRY2-CIBに代わる光遺伝学ツールとしてBcLOV4およびiLID-SspBについて検討した。さらに、MYPTのPP1c結合ドメインの局在化タンパクとして4回膜貫通型タンパクの1種であるStargazinを用いることで、細胞内局所的な光照射実験において長時間に渡り局所的に目的タンパクの集積を維持できることを確認した。これらを通じてOptoMYPTシステムを改善し、ウエスタンブロッティングや牽引力顕微鏡、免疫染色などを用いて特徴付けまで完了した。 当初の目的として据えていた細胞分裂の力学的な制御機構の解明についても、細胞質分裂中の極領域へ光照射し、PP1を局所的に集積させる実験系を確立した。さらに、OptoMYPTを用いて極領域特異的に表層張力を弱めることで、収縮環の収縮速度が加速するという興味深い結果が得られた。加えて、先行文献を基に物理モデルを構築し、収縮環の収縮力に対し表層張力が約10%程度、負に寄与していることを定量的に明らかにすることができた。本研究は、普遍的な細胞機能の1つである細胞分裂における表層張力の生理的意義や物理的な役割を明らかにすることができた点で、細胞分裂研究へ一石を投じたものと言える。 以上の点から、本研究課題はおおむね順調に進展していると結論づけた。
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Strategy for Future Research Activity |
新たな光遺伝学ツールとしての有用性を確かめるため、今後はin vivoにおけるOptoMYPTの応用を試みる。具体的にはアフリカツメガエル胚を用い、観察対象としてアクトミオシン活性の変化による形態変化を観察しやすい胞胚期の動物極や神経胚期の神経板などを想定している。既にアフリカツメガエル胚へのmRNAのインジェクションや、イメージングの実験系については確立済みであり、CRY2-CIBやBcLOV4といったいくつかの光遺伝学ツールが正常に機能することを確認している。OptoMYPTを発現する細胞に対し光照射を行い、表層張力および内圧が低下した際に周囲の細胞との間で押し合いが起こるかどうかを検証する。さらに、細胞の頂端面のみに局在するタンパクを局在化タンパクとして利用することで、頂端収縮の阻害や、上皮シートの形態操作が可能かどうか検証する。 細胞分裂の力学的な制御機構については、これまでに表層張力が収縮環の収縮力に対して負の寄与を果たすことが示唆されている。そこで、既存の光遺伝学ツールであり、光照射依存的に細胞内収縮力を高めることができるOptoRhoGEFを用いて同様の局所光照射実験を行い、OptoMYPTと逆の影響が観察されるかどうか検証する。 これらの結果を論文としてまとめ、国際誌へ報告する予定である。
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