2020 Fiscal Year Annual Research Report
The prior agreement of the decision-making process in the issues of siting a NIMBY facility: empirical research on the potential interested parties and fairness
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19J20573
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
横山 実紀 北海道大学, 文学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 忌避施設立地問題 / 合意形成 / 無知のヴェール / 段階的意思決定 / 事前合意 / 手続き的公正 / ゲーミング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、忌避施設立地問題の合意形成促進手法を決め方の公正さの観点から明らかにすることである。忌避施設立地問題とは、公益のためには必要だが一部に負担が偏るために合意形成が困難となる問題である。その合意形成には、利害当事者の議論による論点整理と、市民による多元的な公益的観点からの評価が必要だが、利害が明らかになると地域住民が決定後に反発することもある。そこで、候補地が絞られる前の誰もが立地地域住民となる状態、すなわち無知のヴェール下で決め方に事前合意する必要がある。 2020年度は、忌避施設を立地する政策の受容、決め方の方針の受容、立地地域住民となった際の受容という三段階の受容を検討する意義を示した。決め方の方針では、無知のヴェールを適用するかしないか、多様な主体が議論する機会があるかないかという決め方を操作し、受容への影響を検討した。誰もが当事者となり得るという無知のヴェールを適用した決め方は受容にとって重要だが、その後の多主体関与がなければ立地地域住民となった際の受容にはつながらない可能性が示唆された。 また、決め方に事前合意する段階では経済合理性や平等原理、地域間公正のような複数の価値基準が論点となる。決め方の事前合意における人々の相互作用過程と、集団としてどのような帰結に至るのかをゲーミング実験を用いて検討した。無知のヴェール下の市民はどこかに押し付けることなく価値基準を満遍なく議論し、議論の場面や決め方は公正と評価された一方で、利害の代弁者の受容にはつながらなかった。以上の結果を取りまとめ、原著論文として査読付き学会誌へ投稿中である。 従来述べられてきた多主体関与の重要性のみならず、段階によって各主体の役割や機能が異なることや無知のヴェールの規範概念の適用可能性を見出し、現実の合意形成への適用の道筋を、具体的事例を伴い実証的に示したことに意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、忌避施設立地問題における固定化した受益-受苦関係を崩し、無知のヴェールを適用した段階的意思決定が合意形成を促進する効果を、公正の観点からゲーミング実験及び仮想シナリオ実験を用いて実証的に検討する。2019年度は1)無知のヴェール下の合意形成に関するゲーミングを作成し、国際学会で発表し、Springer の”Lecture Notes in Computer Science”にも選定された。また、2)負担を分散させることが受容に与える効果を仮想シナリオ実験によって検討し、その結果の一部を発表した日本心理学会第83回大会では特別優秀発表賞を受賞した。この研究成果は原著論文として2020年度に査読付き学会誌である心理学研究に掲載された。2020年度は、1) 段階的な受容と、無知のヴェールと多主体が関与する決め方がそれらの受容に与える影響を仮想シナリオ実験によって検討した。決め方の事前合意における無知のヴェールの有効性と、立地地域選定における多主体関与が受容に与える影響を明らかにした。この研究成果について、日本社会心理学会第61回大会において発表した。また、2) 利害の代弁者の議論と市民の議論による段階的意思決定を念頭に、無知のヴェールがもたらす有効性と限界をゲーミングにより検討した。全地域が立地地域となり得る状況で、自地域の利害を代弁するプレーヤーと自分がどの地域に属するか不明な一般市民のプレーヤーが、社会的特性と価値基準を基に議論するゲームを作成した。その結果、無知のヴェール状況は公正だがそれだけでは受容につながらず、合意形成における各主体の議論の役割や価値基準の議論を基にした決め方で決めていくプロセスの重要性を示唆した。この研究は公益財団法人科学技術融合振興財団からの助成を受け、研究成果を日本シミュレーション&ゲーミング学会2020年度秋期全国大会で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで開発してきたゲームの修正を行い、さらに合意形成につながる研究を展開する。2020年度に作成したゲームでは、利害の代弁者が議論した価値基準と社会的特性を参考に無知のヴェール下の市民が処分地を決定した。しかし実際には、価値基準の議論を経てどのように決めたらよいか合意した後に、その決め方で決めていくことになる。また、利害の代弁者と無知のヴェール下の市民が関わって決めるという決め方にも事前に合意する必要性がある。以上の課題を踏まえ、ゲームの修正を行う。利害の代弁者である首長と利害について無知な住民代表の二段階で議論を進める点は共通だが、はじめから首長役と住民代表役に分けるのではなく、最初に参加者全員が利害関係が明らかな状況で話し合い、合意形成が困難であるという経験と決め方についての合意を経て、次に全員が利害不明な状況で話し合うという二段階の構成にする。 これまでの成果を、忌避施設立地問題の合意形成プロセスにおいて、どのような決定の枠組みで、どのような主体が関与することが合意形成につながる可能性を高めるかという観点で、博士論文としてまとめる。全ての地域が立地地域となり得る状況で、負担分配のあり方を含む、どのような基準で決定していくかを事前に合意することから出発する重要性を示す。また、合意形成に多主体関与が重要であると指摘されてきたが、各主体がそれぞれの役割を持って、段階的に関与することの必要性を鑑みて議論を整理する。さらに、それを理論に留まらず、現実の合意形成への適用の道筋を具体的事例を伴い実証的に示した意義について論ずる。以上の研究を総括し、忌避施設立地問題の合意形成における段階的意思決定の手続きの重要性を体系的にとりまとめる。
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