2020 Fiscal Year Annual Research Report
磁気デバイスにおける磁気緩和現象の解明-デバイス開発での理論的設計指針の確立-
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19J20596
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
平松 諒也 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 磁気緩和現象 / 第一原理計算 / 磁気緩和の増強 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は磁気デバイスにおける磁化の運動,特に磁気緩和と呼ばれる磁化の運動方程式での摩擦に対応する物理現象に着目した理論研究である.磁気緩和現象は,磁化を用いたデバイス素子の性能を決定づけるため,この現象に関する理論的な定量評価がデバイス開発において求められている.しかしながら,磁気緩和現象は磁性材料に加え,周囲の環境である接合材料,温度などの要因が寄与することが知られており,それらの依存性に関する議論が現状では不十分である.本年度ではこの研究背景の下,特にデバイス構造依存性に着目した研究を行った. デバイス構造のうち,磁気緩和における接合材料依存性を評価するにあたり,強磁性/非磁性層や強磁性/非磁性/強磁性層といった多層膜構造を有する系に焦点をあてた.強磁性層と非磁性層が接合した系では,系全体の磁気緩和は,強磁性層でのスピン軌道トルクによる磁気緩和に加え,強磁性層から非磁性層へスピン流が流れることに起因する緩和の増強が見られることが知られている.従来の定量評価では,スピン流の流出という現象を取り込まず,強磁性層のスピン軌道トルクと非磁性層のスピン軌道トルクによる磁気緩和を評価することで磁気緩和の増強と似た傾向を得ていた.しかしながら,この先行研究では,前述した物理現象との対応に関する議論が不足しており,本研究では強磁性層のスピン軌道トルクとスピン流の流出を評価することに取り組んだ.結果,先行研究とほぼ同じオーダーの値を示し,磁気緩和の増強として知られている現象の要因として,非磁性層のスピン軌道トルク・スピン流の流出という2つの可能性を示した. 加えて,デバイス動作を踏まえた構造依存性を議論するため,ノンコリニアな系での定量評価を行った.結果,非磁性層のスピン軌道トルクによる効果とスピン流の流出による効果の相対角度依存性が異なることを示し,両者の定量的な区別手法の提示を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度ではデバイス構造依存性を反映した磁気緩和現象の定量評価を行い,磁気緩和の増強と呼ばれる現象に関して微視的立場から議論することを目的としていた. 本目的を達成するために,従来扱っていた第一原理計算プログラムの拡張を行い,スピン流の流出による磁気緩和を電子のサイト間のホッピングによって生まれるトルクとして評価できるように修正した.得られた結果は,本申請者が行った,従来の強磁性層と非磁性層の両方のスピン軌道トルクを考慮した定量評価とほとんど同様の傾向を示しており,今回の評価結果の正当性を確認できた. 加えて,強磁性/非磁性/強磁性層の三層構造での磁気緩和について,強磁性層間の磁化の相対角度依存性を定量評価を行った.この評価により,非磁性層のスピン軌道トルクによる磁気緩和の増強と,スピン流の流出による磁気緩和の増強の相対角度依存性が異なることを示した.これはスピン軌道トルクがサイト内の電子の運動による効果である一方で,スピン流の流出によるトルクがサイト間の電子の運動による効果であるためであると考えられる. 以上のように,磁気緩和のデバイス構造依存性に関して着実に進展している.一方で,スピン揺らぎを取り込むことによって評価する予定であった磁気緩和の温度依存性に関しては,計算プログラムの完成が間に合わず定量評価まで行うことができなかった.以上のことから,現在の進捗に関しては上記のような評価となった.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針として,本年度行った磁気緩和のデバイス構造依存性に関するより詳細な研究と議論,ならびに磁気緩和の温度依存性に関する定量評価の2つを行う予定である. 前者のデバイス構造依存性に関しては,磁気緩和の増強に関して,非磁性層のスピン軌道トルクによる効果とスピン流の流出による効果の定量的な区別を行うため,強磁性/非磁性/強磁性層の3層多層膜構造での強磁性層間の磁化の相対角度依存性の評価までを本年度で行った.両者の違いが磁気緩和に寄与する電子の運動が異なるためであると結論づけたが,物理的な正当性を保証するためには,より詳細な議論が必要であると考える.具体的には,強磁性層間の磁化の交換結合の評価や多層膜間を流れるスピン流伝導度の評価が求められると考える.したがって,翌年度の第1四半期までに今年度の結果を補完する評価を行う予定である. また,後者の磁気緩和の温度依存性に関しては,前者の研究方針と併行しながら,翌年度いっぱいの研究方針として行う予定である.スピン揺らぎとして温度依存性を評価するために,揺らいだスピンの情報をコヒーレントポテンシャルを用いて取り込む計算手法を採用する予定である.この計算方針の下では磁気緩和定数の評価のためにバーテックス補正による寄与などを新たに考慮する必要があるため,スピン揺らぎをコヒーレントポテンシャルに反映する拡張とコヒーレントポテンシャルの下での磁気緩和の評価への拡張を行う予定である.
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