2020 Fiscal Year Annual Research Report
光応答性を有する三端子DNAを用いた単一分子トランジスタの創案と開発
Project/Area Number |
19J20605
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
原島 崇徳 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | DNA / 分子デバイス / 単分子 / ナノテクノロジー / πスタッキング / トランジスタ / 単一分子 / 走査型トンネル顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、三端子構造に基づく光応答性単一分子トランジスタの創成を目指す。単分子トランジスタの作製においては、3’-5’型DNA単分子接合を基礎構造として用いる。本年度は、1.安定なDNA単分子接合の作製および2.DNAへの光ゲート機能の賦与を目指し研究を実施した。 1.安定なDNA単分子接合の作製 光照射に伴い単分子接合が不安定化することが予想されるため、より安定な接合形成条件を探索することを目的として、DNA単分子接合の形成・破断過程を計測し反応速度論に基づく解析を行った。計測は、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いたトンネル電流の時間分解計測(I-t計測)を行った。結果として、DNAの二重鎖形成反応は、部分的破断状態を中間体として介した反応モデルによって起こることが明らかになった。さらに、各過程の反応速度を算出したところ、基板上のDNA塩基が表面から脱離する過程が反応の律速段階であることが明らかになった。そこで、DNAの表面への修飾条件を変え、被覆率を変化させたところ、DNAの二重鎖形成効率を最大で2倍向上させることに成功した。二重鎖の形成効率が向上したことで、単分子トランジスタのゲーティング特性の計測における実験効率を最大化できるものと期待される。 2.DNAへの光ゲート機能の賦与 DNAに修飾する光応答性の電荷ドナー分子を選定した。当初計画していたスチルベン分子を含む種々の光応答性分子について文献調査を基に初期検討を行い、DNAのπスタック軌道へのホール供与に関する先行研究が豊富なメチレンブルー(MB)を採用した。DNA-MBコンジュゲートを合成し、単分子計測の準備研究として、サイクリックボルタモグラムを測定した。MBの酸化還元に伴う電気化学応答が得られたことから、MB-DNA/電極系において電子移動が計測できることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、三端子構造を有する単分子接合を創製し、光応答性単一分子トランジスタを実現することを目的とする。当該年度は本研究の2年度目にあたり、上記目的を最終年度にて実現するために必要な基礎的知見が得られた。これに加えて、接合構造に基づく単分子計測に広く波及し得る新規方法論の開拓にも成功している。研究成果は筆頭著者として論文にまとめ、Chem. Sci.誌に掲載されたほか、国際会議、国内学会にて発表を行った。 当該年度は、 DNAへの光ゲート機能の賦与および安定なDNA単分子接合の作製に取り組み、最終目的である単一分子トランジスタの開発に向けた準備が着実に進められている。具体的な成果として、本研究で初めて開発する3’-5’型DNA単分子接合の伝導特性評価が挙げられる。本計測を通じ、温度上昇等、光照射に伴って接合が不安定化する条件においても接合状態を保持できる条件の検討まで明らかにできた。さらに、DNA単分子接合を用いて、これまで主に電子状態の探索に用いられてきたトンネル伝導計測の研究に、寿命の速度論解析を導入することで分子スケールの反応解析を実現する新たな展開をもたらした。その結果、DNA二重鎖形成反応において、伝導状態のみでは見分けることのできなかった中間体の存在を初めて実証することに成功した。確立した解析手法は、表面における化学反応を分子スケールの過程に分解し評価するための重要な方法論として有用なものである。 以上の観点から、当該年度の研究進捗状況は当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、最終目的である三端子DNA単分子接合に基づく光ゲーティング機能の実証に取り組む。使用するDNAには、ホールドナー性をもつメチレンブルー分子を修飾し、光ゲーティング機能を賦与する。計測は、2年目に設計した光学系に立脚し、633 nmのレーザー光を入射しながらSTMによる単分子接合の伝導計測を実施する。まず初めに、単分子接合の電気伝導度が入射光の有無で変化することを示すことで、単分子接合の光応答性を検証する。次に、単分子接合の安定性が保証できる範囲内で入射光の光強度を変更し、I-V特性の変化を計測する。光強度に対するI-V特性の変化率を算出することで、トランジスタ素子としての光応答性を定量的に評価する。以上のプロセスにより、最終目標である光応答性トランジスタ機能の発現を目指す。また、今回ホールドナーとして使用するメチレンブルー分子はDNA内の任意の位置に修飾できる。この利点に着目し、メチレンブルー分子の修飾位置を変化させたDNAの光応答性をそれぞれ比較する。メチレンブルーの修飾位置とDNAの配列は、1,2年目で申請者が習得したDFT計算に基づき検討する。具体的には、単分子接合の電気伝導に関与するπスタック軌道とメチレンブルーとの軌道相互作用が大きいDNA及び小さいDNAをそれぞれDFT計算から予想し、合成する。軌道相互作用と光応答性の関係性を調べることで、メチレンブルーからのホール供与による電界効果を検証する。ホール供与分子の修飾位置を変更することで、三端子DNAの光応答性がチューニングできることを示すことができれば、本研究の単分子トランジスタの汎用性を一層高めることができる。
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Research Products
(6 results)