2019 Fiscal Year Annual Research Report
視覚的印付けにおける抑制テンプレートの可塑性と現実場面への拡張
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19J20617
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山内 健司 北海道大学, 文学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 注意 / 視覚的印付け / 抑制テンプレート |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は視覚的印付けにおける抑制テンプレートの性質の検討が目的である。視覚的印付けとは、刺激が2段階呈示される分割呈示探索課題において、1段階目に呈示された妨害刺激(先行刺激)を抑制し、標的を含んだ追加される刺激(後続刺激)に対して効率的探索を行う現象である(Watson & Humphreys, 1997)。生起メカニズムは、先行刺激に対する抑制テンプレートの刑成と考えられている。このトップダウンに形成される抑制テンプレートの性質は、分割呈示探索課題に他の現象(ex.刺激や背景の変化)や課題(ex.二重課題)を組み合わせることで、調べられてきた。 本年度では、これまで組み合わせられていなかった現象や課題を導入し、新しい性質を2つ示した。1つ目は、後続刺激にシングルトンを呈示する条件を設けた。結果、反応がより促進され、シングルトンへの能動的抑制(Sawaki & Luck, 2010)が抑制テンプレートに統合されたと考えられる。これまで効率的な探索を阻害する脆弱性ばかり報告されてきたが、抑制テンプレートの更新という新しい可塑性を発見した。2つ目は、先行画面中に内発的空間手がかり(矢印)を呈示する条件を設けた。結果、探索課題とドットプローブ課題(抑制テンプレートがあると、ドットが先行刺激位置に出現すると、後続刺激位置に出現する場合よりも検出成績が悪くなる)の両方から、手がかりの効果と抑制テンプレートの効果の共存が示唆された。これまではボトムアップに注意捕捉する現象が抑制テンプレートを弱める報告ばかりであったが、視覚探索課題における他のトップダウンの注意誘導がある場合に、抑制テンプレートがネガティブな影響を受けないことを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
課題テーマの視覚的印付けの抑制テンプレートの可塑性に関する研究の進捗は、当初、難航していた。シングルトンによる新しい可塑性を発見した次の段階として、先行画面と後続画面の間にブランク画面を挟み、またその呈示時間を操作するパラダイムを考案していた。長いブランク(ex. 750ms)において視覚的印付けの生起が確認された後に、先行刺激に操作を与え、抑制テンプレートが先行刺激のどの次元(位置・色・形態など)に基づいて形成されるかを検討する計画であった。しかし、長いブランクを挟む条件で視覚的印付けが生起せず、実行へ移せなかった。 そこで、他の課題を組み合わせるという点で、空間手がかり課題(e.g., Posner, 1978)に着想した。これまで分割呈示探索課題に組み合わされてきた現象や課題は視覚的探索の標的への情報を何も含んでいなかったが、空間手がかり課題は標的への情報を含め点が異なる、また、手がかりが標的と一致する場合と不一致する場合があり、それぞれの場合に抑制テンプレートがどう影響を受けるかを検討できる。更に、手がかり内発的と外発的の2種類があり、ともに検討することが可能である。現段階で、内発的空間手がかりを用いた場合の実験を終えるところまで進むことができた。 以上のように、実験計画が途中で頓挫する場面があり、若干の遅れが生じてしまった。しかし、新しい計画案を発想でき、実行に移すことはできている。また、課題テーマから派生するプロジェクトにも積極的に取り組んでおり、論文執筆・学会発表などに繋げ、一定の成果を上げられたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
分割呈示探索課題に外発的空間手がかり(光点の短時間呈示)を組み合わせる実験を行う。外発的手がかりは、手がかりが一致の場合に標的位置を直接トップダウンに注意捕捉する点が内発的手がかりとは異なる。また、注意は機序の異なる内発的制御と外発的制御という2つの異なるネットワークで構成されている(Corbetta, Patel, & Shulman, 2008)ので、検討する価値は大いにある。そして、ボトムアップな注意捕捉であっても、探索開始前であれば抑制テンプレートに影響しないという報告(Jiang et al., 2002)がある点に関して、内発的空間手がかりを呈示した実験と同様に、ドットプローブ課題を用いて、手がかりによる注意捕捉効果そのものが抑制テンプレートにどう影響するかを検討する。 また、視覚的印付けが生起する個人差に着目したい。この個人差に関する研究報告は少ない(e.g., Al-Aidroos, Emrich, Ferber, & Pratt, 2012; Mason, Booth, & Olivers, 2004; Yamauchi, Osugi, & Murakami; 2017)。Al-Aidroos et al. (2012)は、視覚的作業容量が抑制できる先行刺激数に対応していることを示した。今後は、OSPANで測定される、視覚に限局しない作業容量が、視覚的印付けの生起に対応しているかを検討する。OSPANで測定される作業容量が視覚探索におけるトップダウン制御に寄与するので(Sobre, Gerrie, Poole, & Kane, 2007 )、先行刺激の抑制に関連性があると予測される。これにより、視覚的印付けを行う能力が他の場面にも通ずる可能性を探ることが出来るだろう。
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Research Products
(8 results)