2020 Fiscal Year Annual Research Report
株主総会における議決権行使と会計情報および会計行動との関係
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19J20661
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
岩田 聖徳 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 会計情報 / 議決権行使 / コーポレート・ガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者の研究の目的は、会計情報および情報開示が議決権行使の意思決定に及ぼす影響や、会計情報を利用した議決権行使が投資先企業の経営行動に与える影響を明らかにすることである。令和2年度においては、3点の進展があった。 第1に、機関投資家サイドの情報開示制度の影響について研究を行った。本研究では、日本版スチュワードシップ・コードで導入された個別開示制度(機関投資家の議決権行使結果について企業毎・議案毎に開示を要請したもの)が機関投資家による投資先企業への積極的な反対行動を促したか否かを分析している。個別開示を実施した投資家の投資先を処置群とした差の差分分析(Difference in Difference Analysis)の結果、規範となる基準(社外取締役2名)に抵触する企業では、処置群の賛成率が低下したこと、および処置群における社外取締役選任確率の増加が観察された。本研究の成果は論文としてまとめ、現在査読誌に投稿中である。 第2に、日本企業の取締役選任に関する会社提案の決議結果についてデータベースを作成し、議決権行使・株主提案の実態や取締役の在任に対する影響を調査した。調査の結果、日本では取締役選任にあたって会社提案の殆どが90%以上の賛成率をもって可決され、株主提案は棄却される傾向にあることがわかった。他方、会社提案への賛成率や特定の取締役の非選任を要求する株主提案の提出は当該取締役の翌期退任と関係し得ることが示された。前述の内容は、共著論文としてまとめ、雑誌に掲載される予定である。 第3に、会計情報の質が株主の議決権行使に与える影響に関する研究を行っている。本研究では、会計利益が一般に参照される議題として代表者の選任議案に着目し、利益の質が低い企業では利益指標と賛成率との結びつきが弱くなることを含意する証拠が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度までの進捗状況は、おおむね順調であると判断している。まず、令和1年度から分析を行っていたペイアウトに関する株主提案を受けた企業による利益調整行動に関する研究は、査読誌に掲載された。また、日本企業を対象とした取締役の選任に関する議決権行使・株主提案の影響について実態分析を行ったものを共著論文にまとめ、同論文については既に掲載が決定している。加えて、日本版スチュワードシップ・コードにより導入された機関投資家による議決権行使結果の開示制度の影響について実証的に分析し、査読誌への投稿を行っている。さらに、議決権行使と利益の質に関しても新たに研究をスタートし、近々査読誌に投稿を検討している。上記の通り、令和2年度までにおいて4点の研究上の進捗があるため、概ね順調に研究活動が進展していると結論づける。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、企業の開示する会計情報の質や、目標利益の達成が株主の議決権行使行動にいかなる帰結をもたらすかについて、実証的に分析を行う。会計情報、特に利益情報は企業経営の効率性の指標として用いられ、コーポレートガバナンスの文脈では経営者の交代や報酬に影響を与えるものであると考えられてきた。一方、企業外部の財務諸表利用者たる株主が議決権行使の文脈においてどのように会計情報を活用しており、また会計利益の「質」が株主の投票行動にいかなる影響を有するのかについては、先行研究の蓄積に乏しい。本研究では、目標利益の達成が資本市場および経営者の評判に影響を与えるとする先行研究の知見に基づき、目標利益を達成した経営者がより多くの賛成票を得るという関係性が観察されるか否かを分析する。また、そうした会計上のパフォーマンスと株主総会における賛成率との結びつきが、会計情報の質によって影響を受けるのか否かについて分析を行う。 前述の研究については現在作業を進めており、分析内容のブラッシュアップおよび英文校正を行った後、ワーキングペーパー化・査読誌への投稿を行っていく予定である。現時点では、日本経済会計学会が発行するAccounting Lettersを投稿先として想定している。同研究の投稿が完了した後は、関連分野の文献渉猟やデータの整備を行い、さらなるテーマの深化を試みる。現状の研究では株主の投票判断(賛成・反対)と会計情報の結びつきを検討しているが、会計情報の属性が株主の投票参加の意思決定に関連するか否かについても検討の余地がある。こうした論点に関する実証分析について10月頃までに草稿を作成し、European Accounting Association等の学会における口頭発表への応募を行う。
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Research Products
(2 results)