2020 Fiscal Year Annual Research Report
ベンザインの連続発生法を基盤とした芳香環修飾法の開発とアルカロイド合成への応用
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19J20732
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
下村 誠志 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | アルカロイド / ピロロイミノキノン / 全合成 / 酸化的スピロ環化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、硫黄含有ピロロイミノキノンアルカロイドの一種であるdiscorhabdin Bの全合成研究に取り組んだ。discorhabdin Bは強力な抗腫瘍活性を有することが知られており、合成標的化合物としてだけでなく創薬化学の観点からも注目を集めている化合物である。初めに、不斉誘起型の酸化的スピロ環化反応を検討した。環化前駆体に多様な不斉補助基を導入し、超原子価ヨウ素による酸化的スピロ環化反応を試みた。その結果、o-クロロマンデル酸誘導体を用いた際に、僅かにジアステレオ選択性が発現することを見出した。今後、収率および選択性のさらなる改善に向けた検討を進め、discorhabdin Bの不斉全合成に応用する予定である。続いて、硫黄含有discorhabdin類に共通するアザビシクロ[3.2.1]骨格の構築法を検討した。すなわち、昨年度までに量的供給法を確立したスピロジエノンを基質として、様々な酸化条件を精査した。その結果、銅触媒を用いた位置選択的酸化と続くN,S-アセタールの形成を経るアザビシクロ[3.2.1]骨格構築法を見出すことに成功した。その後、ブロモ基の位置選択的な導入を含む数工程の変換により、discorhabdin Bの世界初の全合成を達成した。本研究結果は、硫黄含有discorhabdin類の網羅的合成の足掛かりとなる極めて重要な基盤技術であり、今後学術誌に投稿する予定である。現在、確立した合成手法を基盤に、より複雑な縮環構造を有した類縁化合物の網羅的全合成に向けた検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、銅触媒を用いた位置選択的酸化と続くN,S-アセタールの形成を経るアザビシクロ[3.2.1]骨格構築法を新たに確立し、discorhabdin Bの世界初の全合成を達成した。本全合成はこれまで合成が困難とされてきた硫黄含有discorhabdin類の網羅的合成の足掛かりとなる基盤技術であり、一定の研究成果が得られたと考えている。一方、discorhabdin Bの不斉全合成に向けた酸化的スピロ環化反応に関しては、僅かにジアステレオ選択性の発現を確認したものの、収率および選択性のさらなる改善を必要としている。したがって、現在までの進捗をおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では、硫黄含有discorhabdin類の網羅的全合成を達成するために、類縁化合物への誘導化を検討する。例えば、本年度に合成法を確立したdiscorhabdin Bの1,4-還元によりdiscorhabdin Aもしくはdiscorhabdin Dを、C1位への水酸基の導入によりdiscorhabdin Lをそれぞれ合成できると期待している。また、不斉全合成を見据え、酸化的スピロ環化反応のジアステレオ選択性の向上を目指す。具体的には、マンデル酸誘導体を不斉補助基として用いた際に比較的良好な結果が得られたという知見から、マンデル酸誘導体の芳香環上の置換基効果について精査する。これらの検討により、ジアステレオ選択性の向上が困難な場合は、銅触媒と不斉配位子を用いる不斉酸化的スピロ環化反応など他の手法についても検討を行う。スピロ中心に相当する不斉四級炭素の構築に成功した後に、discorhabdin Bの不斉全合成を達成する予定である。今後、上記で得られる研究成果を国内学会で発表する予定である。
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