2020 Fiscal Year Annual Research Report
世界一長い炭素-炭素単結合に基づく共有結合の新規概念確立と革新的応答系の構築
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19J20831
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
島尻 拓哉 北海道大学, 大学院 総合化学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 長い結合 / X線結晶構造解析 / 光環化反応 / 熱開環反応 / 酸化還元 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、長く弱い結合を有する化合物を安定化する独自の分子内コア-シェル構造に基づいて、極度に長いCsp3-Csp3単結合を有するジスピロジベンゾシクロヘプタトリエン誘導体を設計・合成した。得られた誘導体の単結晶を用いてX線結晶構造解析を行った結果、400 Kにおいて中性炭化水素で最長のCsp3-Csp3単結合[1.806(2) Å]を観測した。その存在は結合の電子密度と伸縮振動の観測により実証された。 本研究は、① 1.8 Åを超えるCsp3-Csp3単結合を有する超結合性分子群を構築することによる、化学結合の新規概念としての”超結合”の確立、② 極度に長いCsp3-Csp3単結合が有する結合の"柔軟性"の発見、③結合の“柔軟性”に基づく高度に制御された応答系の構築を目指したものである。 本年度は、課題③に焦点を当て、研究を進めることとした。ジスピロジベンゾシクロヘプタトリエン誘導体は紫外光照射によって[2+2]光環化反応が進行し、かご型化合物へと構造変化した。一方で、かご型化合物は加熱によって熱開環反応が進行することで元の構造を復元した。この構造変化に伴って、結合の収縮とともに酸化電位が大幅に上昇し、最大で約1.1 Vも差があることが明らかとなった。また、酸化電位の劇的な変化にもかかわらず、いずれの分子でも同一のジカチオン型色素へと変換可能であった。これらの結果は、光/熱/酸化還元反応は全て固体状態でも進行し、固体状態において光/熱/酸化還元による三状態の相互変換を達成した、世界で初めての例となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Csp3-Csp3単結合の収縮と伸長が、単に構造的な変化ばかりでなく電子状態の変化に直結することを示すものであり、Csp3-Csp3 単結合の収縮と伸長が機能性開拓に利用できることを提示できた点は極めて意義深い。また、光/熱/酸化還元による構造変化がすべて固体状態で進行したことは、溶媒を用いない環境でも機能性材料が活用可能であることを示しており、重要なプロトタイプを提供できたため。
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Strategy for Future Research Activity |
シェルを光/熱のような外部刺激で構造変化できたことから、その剛直性が調整可能になった。今後は結合が極めて弱く単離が困難な化合物を、シェルの剛直性をスイッチングすることによって、安定に単離する手法の開発を目指す。
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