2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J20876
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高橋 徹 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 冬眠 / 休眠 / 低代謝 / 低体温 / 視床下部 / 神経科学 / 体温制御 / 哺乳類 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らの研究グループが作製した新規マウス系統とCre酵素依存性AAVベクターを用いて、このマウスの視床下部の特定の部位に位置するニューロン群を選択的に興奮させた結果、このマウスの代謝率と体温が長期間(少なくとも一日以上)にわたり著しく低下することを研究代表者は見出した。 この休眠に似た状態を誘導するニューロン群をQ ニューロン(Quiescence-inducing neuron:休眠誘導神経細胞)、Qニューロンの興奮によって引き起こされる顕著かつ長期的な低代謝・低体温状態をQIH(Q neurons-induced hypometabolism/hypothermia)と名付けた。 QIH中のマウスの体温制御機構を解明すべく行った実験の結果、この低代謝・低体温は、設定体温(体温のセットポイント)の低下ならびに熱産生感度(熱をどれだけ産生するかの指標)の低下によって実現されていることが判明した。またこのマウスは全個体が自発的に正常状態に戻ることがわかった。これらの特徴は、QIHが(1日以上に及ぶ長期的な休眠である)冬眠(hibernation)に似ている低代謝状態であることを支持した。したがってQIHは冬眠様状態であるという主張を軸に論文を作成・投稿し、2度の修正期間を経て(研究代表者を単独筆頭著者、受入研究者を責任著者として)正式に受理された(Takahashi, T. M. et al. Nature. in press )。 当該論文の成果は、非冬眠哺乳動物(マウス)に冬眠を導く神経システムが眠っている可能性を提唱しており、冬眠現象を人工的にヒトに応用する技術(人工冬眠)の開発への重要な進歩となり得る。また、マウスという強力な研究ツールを哺乳類の冬眠研究へ適用させたことから、研究代表者の研究は冬眠・低代謝学問領域の重要な基盤となる研究となる可能性を秘めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請後から採用までの期間における実験が極めて順調に進行し、指導教員との綿密な議論の結果、DC1申請時に計画していた実験を完全に遂行する前に論文としてまとめるべきと判断し、論文投稿に至った。当該論文の修正期間に、実験計画に記載した実験の一部も追加で遂行し、結果的に2019年度中(2020年3月4日)に正式な受理に至った(Takahashi, T. M. et al. Nature. in press) 。初年度において既に当該研究内容が論文受理に至った点から、区分(1)が適切だと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
申請書の研究計画に記載した研究内容は2019年度においてほぼ完了し、当該研究成果は学術誌へ既に受理されている(Takahashi, T. M. et al. Nature. in press )。よって2020年度からは、申請書に記載した研究の次の段階に移行する。特に神経科学的観点から、制御された低代謝(QIH)のメカニズムの更なる解明を目指す。Qニューロンが標的とするニューロン群の神経科学的プロパティの詳細な同定、さらにその下流に位置するであろう未知の低代謝誘導ニューロン群・神経核の同定に着手する。これらの研究を通して、哺乳類の制御された生理的な低代謝-冬眠・休眠-の原理解明に迫りたい。
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Research Products
(1 results)