2019 Fiscal Year Annual Research Report
肉用鶏の形質マーカーの確立を目指した骨格筋芽細胞の網羅的な遺伝子発現解析
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19J20888
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
二橋 佑磨 信州大学, 総合医理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 骨格筋幹細胞 / 筋芽細胞 / ニワトリ / 遺伝子発現解析 / オピオイド |
Outline of Annual Research Achievements |
食肉となる骨格筋は、筋芽細胞の増殖と分化によって形成される。我々は、卵用鶏に比べ、肉用鶏の筋芽細胞は活発に増殖・分化することを明らかにしてきた。その分子基盤を詳細に理解するため、卵用鶏と肉用鶏の筋芽細胞における遺伝子発現を網羅的に解析した。 卵用鶏 (WL) および肉用鶏 (UKC) から筋芽細胞を採取し、分化誘導前、分化誘導後1日目および2日目における遺伝子発現を RNA-seq で定量した。サンプル間で発現量が異なる遺伝子群 (DEGs) のオントロジーを解析した。また、主成分分析により、筋芽細胞の特性に寄与する因子を探索した。 バイオインフォマティクス解析によって、筋分化を通じて WL と UKC で発現量が異なる 336 DEGsを抽出した。オントロジー解析によって、この336 DEGsには、多数の膜タンパク質が含まれていることを明らかにした。さらに階層的クラスタリングにより、WL または UKC 筋芽細胞の分化で発現が変動する 840 DEGs を抽出した。これらの遺伝子群は、細胞周期と筋形成に関わる遺伝子クラスターを含んでいた。次に、筋芽細胞の性質に寄与する未知の遺伝子を探索するため、主成分分析を行った。第1主成分は筋分化の段階と、第2主成分は品種間の差異と極めてよく対応していた。バイオインフォマティクス解析で得られたDEGs に含まれ、かつ各主成分への因子負荷率が大きい13遺伝子を同定した。これら候補因子の役割の解明は、筋芽細胞による筋形成メカニズムの理解を進め、食肉生産に資する新たな知見に結び付くと期待される。本年度は、その一例として、候補因子の一つであるエンケファリン前駆体遺伝子 PENK について、筋芽細胞における役割を実験的に調べた。その結果、エンケファリンはニワトリ筋芽細胞の増殖を抑制するが筋分化には影響しないことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は、肉用鶏筋芽細胞の活発な細胞分裂や筋分化を制御する遺伝子を同定するため、RNAシーケンシングデータをバイオインフォマティクスの手法で解析した。卵用鶏と比較して、肉用鶏の筋芽細胞では増殖・分化に関わる遺伝子群の発現が高いことや、肉用鶏と卵用鶏筋芽細胞で細胞表面タンパク質の発現が異なることを明らかにした。さらに、オントロジー解析と計量統計学的手法により、筋芽細胞の性質への関与が推測される因子を複数同定した。 これらの遺伝子群のうち、骨格筋における報告がなく機能未知のものに特に着目し、筋芽細胞の増殖・分化における役割を調べた。その結果、候補因子の一つであるエンケファリンがニワトリ筋芽細胞の増殖を抑制するが筋分化には影響しないことを明らかにした。これらの結果を、国際学会The 2nd International Conference on Tropical Animal Science and Productionで発表し、さらに、国際学会誌Scientific Reportsに原著論文として発表した。 以上のことから、期待以上に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
卵用鶏WLと比較して、肉用鶏UKCの筋芽細胞が示す活発な細胞分裂や筋分化を制御する遺伝子を同定するため、RNAシーケンスデータのクラスタリング解析・パスウェイ解析を行った。また、主成分分析によって、全遺伝子の発現量を数学的に解析し、各主成分に対して因子負荷率の大きい遺伝子を抽出した。これらの解析データから、ニワトリ骨格筋において報告がなく、機能未知の因子に着目し解析を行っていく。解析によって得られた候補遺伝子から翻訳されるタンパク質等を投与し、筋芽細胞の増殖・分化を評価する。次に、同定・解析した因子の相互作用の情報をもとに、筋分化に影響すると予想される遺伝子群の機能と、細胞内における具体的な役割を明らかにする。レトロウイルスベクターによって、目的の遺伝子を過剰発現・ノックアウトした筋芽細胞を作製する。これらの筋芽細胞の増殖培地中での細胞分裂を、細胞数やDNAのアナログであるEdUの取り込みを指標に定量し、細胞周期に及ぼす影響を調べる。また、骨格筋の最終分化マーカーであるミオシン重鎖の陽性率・筋管形成率を経時的に計測し、筋分化能が変化するかを解析する。さらに、目的の遺伝子の下流の遺伝子発現をqPCRによって定量する。これらの実験で解析した遺伝子群のシグナル経路に対するアゴニスト・アンタゴニストを投与し、これらのシグナルが筋芽細胞の増殖・分化に与える影響を解析する。RNAシーケンスデータの解析過程で、レトロウイルスに由来するnon-coding RNA の発現にも肉用鶏と卵用鶏で差があることがわかっている。近年では、non-coding RNAが直接あるいは間接的に近傍遺伝子の発現に影響し得ることが報告されている。これらのnon-coding RNAをコードする遺伝子の近傍遺伝子について発現解析を行い、ニワトリ骨格筋での役割について解析を行う。
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Research Products
(9 results)