2020 Fiscal Year Annual Research Report
肉用鶏の形質マーカーの確立を目指した骨格筋芽細胞の網羅的な遺伝子発現解析
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19J20888
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
二橋 佑磨 信州大学, 総合医理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 骨格筋幹細胞 / 筋芽細胞 / ニワトリ / 遺伝子発現解析 / コレシストキニン |
Outline of Annual Research Achievements |
RNAシーケンシングデータをバイオインフォマティクスの手法で解析した結果、卵用鶏と比較して、肉用鶏の筋芽細胞では増殖・分化に関わる遺伝子群の発現が高いことや、肉用鶏と卵用鶏筋芽細胞で細胞表面タンパク質の発現が異なることを明らかにした。さらに、オントロジー解析と計量統計学的手法により、筋芽細胞の性質への関与が推測される因子を複数同定した。これらの遺伝子群のうち、骨格筋における報告がなく機能未知のものに特に着目し、筋芽細胞の増殖・分化における役割を調べた。 令和二年度は、コレシストキニン(CCK)がニワトリ筋芽細胞の分化過程で特徴的な発現パターンを示すことを明らかにした。CCKは、中枢神経系では神経伝達因子、腸管では消化管ホルモンとして作用することが知られていたが、筋芽細胞における役割は知られていなかった。本研究では、大型哺乳類の筋形成モデルとしてヒト筋芽細胞を用い、その分化におけるCCKの作用を検討した。定量PCRの結果、ヒト筋芽細胞がCCK前駆体および受容体の遺伝子を発現していることがわかった。8残基の活性型CCK(CCK-8)単体を筋芽細胞に投与して分化誘導したところ、筋分化マーカー遺伝子の発現や、ミオシン重鎖陽性の筋管形成に変化は見られなかった。しかし、CCK-8または4残基型CCK(CCK-4)をインスリンとともに筋芽細胞に投与した結果、筋管形成率が有意に上昇した。以上の結果は、哺乳類筋芽細胞が発現するCCKは、インスリン存在下で自己分泌シグナルとして筋形成に寄与していることを示唆する。今後、長鎖CCKの検討を含め、筋分化におけるCCKの作用機序をより詳細に解明していくことで、研究の発展が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和二年度は、コレシストキニン(CCK)がニワトリ筋芽細胞の分化過程で特徴的な発現パターンを示すことを明らかにした。CCKは、中枢神経系では神経伝達因子、腸管では消化管ホルモンとして作用することが知られていたが、筋芽細胞における役割は知られていなかった。本研究は、ヒト筋芽細胞がCCKとその受容体の遺伝子を発現すること、そしてCCK-4/8がインスリン存在下で筋管形成を促進することを明らかにし、CCKは自己分泌因子として筋芽細胞の分化に寄与していることを示唆した。一方で、CCKは生理的条件を反映して様々な臓器から分泌されるサイトカインでもあり、臓器間クロストークを介して、筋組織の発生や形成、恒常性の維持に関与している可能性が示唆されている。本研究ではCCK-4とCCK-8を実験に用いているが、筋芽細胞が分泌する活性型CCKペプチドの種類は未同定である。筋分化におけるCCKの役割を正確に理解するには、筋芽細胞が分泌するCCKペプチドを特定するとともに、CCK-4/8以外の活性型CCKの作用を検証することが求められる。今後、長鎖CCKの検討を含め、筋分化におけるCCKの作用機序をより詳細に解明していくことで、研究の発展が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
卵用鶏と比較して、肉用鶏の筋芽細胞が示す活発な細胞分裂や筋分化を制御する遺伝子を同定するため、RNAシーケンスデータの解析を行った。また、主成分分析によって、全遺伝子の発現量を数学的に解析し、各主成分に対して因子負荷率の大きい遺伝子を抽出した。候補因子の中には、サイトカインやペプチドホルモンをコードする遺伝子(CCK, CXCL14, MDK, PENK)が含まれている。これらのペプチドがニワトリ筋芽細胞に及ぼす影響の報告はなかった。本年度も引き続き、候補遺伝子から転写・翻訳されるペプチドに関する解析を行っていく。候補遺伝子から翻訳されるタンパク質(ペプチド)等を投与し、筋芽細胞の増殖・分化を評価する。次に、同定・解析した因子の相互作用の情報をもとに、筋分化に影響すると予想される遺伝子群の機能と、細胞内における具体的な役割を明らかにする。レトロウイルスベクターによって、目的の遺伝子を過剰発現・ノックアウトした筋芽細胞を作製する。これらの筋芽細胞の増殖培地中での細胞分裂を、細胞数やDNAのアナログであるEdUの取り込みを指標に定量し、細胞周期に及ぼす影響を調べる。また、骨格筋の最終分化マーカーであるミオシン重鎖の陽性率・筋管形成率を経時的に計測し、筋分化能が変化するかを解析する。さらに、目的の遺伝子の下流の遺伝子発現をqPCRによって定量する。これらの実験で解析した遺伝子群のシグナル経路に対するアゴニスト・アンタゴニストを投与し、これらのシグナルが筋芽細胞の増殖・分化に与える影響を解析する。これら候補因子の役割の解明は、筋芽細胞による筋形成メカニズムの理解を進め、食肉生産に資する新たな知見に結び付くと期待される。
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Research Products
(9 results)