2019 Fiscal Year Annual Research Report
複数のシナプス形成分子間の競合によって作られるシナプス個性の新しい決定機構
Project/Area Number |
19J20907
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
野澤 和弥 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 神経科学 / シナプス / グルタミン酸受容体 / シナプス形成 / シナプス伝達 / 小脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経細胞同士の情報伝達を担うシナプスは複数の細胞接着分子や分泌分子によって形成、維持され、これらの分子の異常は精神疾患や発達障害と深くかかわる。しかし、シナプス形成分子に対して免疫組織化学に適した抗体が少なかったことから、分子の局在と機能を関連付けた研究は少ない。また、複数あるシナプス形成分子がどのように働き、それぞれのシナプスの個性が決定づけられているのか、不明な点が多い。本研究では、代表的なシナプス形成分子である Nlgn1 のエピトープタグノックインマウス(HA-Nlgn1 マウス, Nozawa et al., 2018)を利用し、従来困難であった内因性 Nlgn1 の免疫組織化学による解析を行い、Nlgn1 と同じく Neurexin(Nrxn) を受容体とする分泌因子である Cbln との競合関係に注目することにより、複数のシナプス形成分子間の相互作用によるシナプス個性の決定機構を明らかにすることを目的とする。 今年度は、Nlgn1とCbln1のシ競合現象がシナプスにおいて起きるかどうか検証した。培養神経細胞ではNrxnによるシナプス後部のNlgn1の集積がCbln1によって抑制されることが明らかになった。一方で、Nlgn1とCbln1の両者が局在する小脳平行線維―介在神経細胞間シナプスでは、Cbln1欠損マウスにおいて、Nlgn1のシナプス局在が強化されることを免疫組織化学により見出した。これらの結果は、in vitroおよびin vivoでNlgn1・Cbln1間の競合が起きることを示唆する。さらに、Cbln1によるNlgn1シナプス局在の抑制は、シナプス後部におけるNMDA型グルタミン酸受容体の制御する可能性が培養神経細胞、および小脳切片を用いた電気生理学実験により示唆され、Nlgn1とCbln1が互いに競合することによってシナプス機能を制御する可能性が見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、Neurexin を共通の受容体とする Neuroligin-1(Nlgn1)とCbln1に焦点を当て免疫組織化学による詳細な局在解析を行うことにより、複数のシナプス形成分子間の競合が in vitro および in vivo においても起こることが証明されつつある。さらに、電気生理学的手法を用いることで、Nlgn1とCbln1の競合に伴ってNMDA型グルタミン酸受容体を介したシナプス伝達が変化することを見出した。これらの結果は、本研究の課題である「複数のシナプス形成分子間の競合によって作られるシナプス個性の新しい決定機構」の存在を支持する新たな所見であり、「当初の計画以上に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
近年、グルタミン酸受容体やシナプス形成分子はnmサイズのクラスターを形成し、機能することが注目されている。そこで、光学顕微鏡の限界を超えた解像度の得られる超解像度顕微鏡を用いてより詳細なNlgn1の局在解析を行い、Nlgn1とCbln1の競合現象の実態をさらに追及する。さらに、電気生理学的手法によるシナプス機能変化の検討をさらに推し進め、論文化を図る。
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