2019 Fiscal Year Annual Research Report
畏敬の念の負の側面に関する研究ー個体と環境の相互作用の観点からー
Project/Area Number |
19J20942
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高野 了太 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 畏敬の念 / fMRI / 自己 / 感情 / 集団間関係 / 共感性 / 身体所有感 |
Outline of Annual Research Achievements |
畏敬の念は、心理学・認知科学系の一流国際雑誌に取り上げられる重要トピックである。本研究では、畏敬の念を感じることにより「自分をちっぽけに感じる感覚」が生じるとする先行研究に基づき、畏敬が自己感をどのように変化させるのかについて、ラバーハンド実験を用いて身体所有感の観点から検討した。ラバーハンド実験では、衝立で隠された自分の手と、目の前に置かれた義手(ラバーハンド)を同時に撫でられることで、徐々にラバーハンドを自分のもののように錯覚する現象が生じる。先行研究では、自己主体感(行為を引き起こしているのは自分だ、という感覚)が脆弱であるとされる統合失調傾向が高いと、ラバーハンド錯覚への感受性が高いことが示されている。畏敬の念が外的な出来事の原因を「運」や「超自然的な何か」に帰属する傾向を高めることを考慮すると、畏敬の念はラバーハンド錯覚への感受性を高める可能性が考えられる。そこで実験を実施した結果、得られた成果は以下の通りである。 1. 楽しさやニュートラルな状態と比べ、畏敬の念を感じた状態でのラバーハンド実験において、「ラバーハンドを自分のものと思うようになる感覚」が高いことを確認した。 2. 畏敬の念を感じた状態において、「自分をちっぽけに感じる感覚」の程度と、「ラバーハンドを自分のものと思うようになる感覚」の程度が正に相関することを確認した。 これらの新たな知見は、畏敬の念が「自己を手放す」可能性を示唆する点において、複雑かつ不明な部分の多い高次感情である畏敬の心理メカニズムの解明に寄与する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、畏敬の念の重要な心理側面である「自己をちっぽけに感じる感覚」について、身体所有感を低下させることを新たに発見した。このことは、畏敬が「自己を手放す」心理プロセスを有する可能性を示唆し、畏敬が利他性の促進等の社会的態度・行動の変容をもたらす観点から、集団間関係や共感性の心理メカニズムの解明に寄与する。 このように現在進行中のデータを蓄積するとともに、これまでの研究で得られた、畏敬の念の神経メカニズムに関するfMRI研究の論文を執筆し、原著論文としてEmotion誌に投稿・受理された。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記の通り新たに明らかにした畏敬の念の心理プロセスについて、西洋・東洋の畏敬の文化差を視野に入れた環境要因と遺伝子多型の相互作用の検討、およびfMRIやtDCSを用いた神経メカニズムの解明を目指す。 さらに、上記に得られたデータを査読付き論文として国際誌に投稿する。
|