2020 Fiscal Year Annual Research Report
畏敬の念の負の側面に関する研究ー個体と環境の相互作用の観点からー
Project/Area Number |
19J20942
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高野 了太 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 畏敬の念 / 感情 / 主体性 / 自己 / スピリチュアリティ / 身体性 / 公正世界信念 / 実体 |
Outline of Annual Research Achievements |
畏敬の念は、「既存の認知的枠組みを更新するような広大な刺激に対する感情反応」と定義され、その理解を超越した刺激入力は新たな意味体系の生成を駆動する(Keltner & Haidt, 2003; 中山,2020; Valdesolo et al., 2017)。本研究は、畏敬のこの意味生成の側面に着目し、畏敬が人間の自己・他者・世界の知覚にどのような影響を及ぼすのかについて、公正世界信念(この世界は秩序だっており、人はその人にふさわしい相応のものを得ているという信念)との関わりから検討した。 結果、畏敬は自己に関する公正世界信念(「私は私に値するものを得ている」)の低さと関連する一方で、他者に関する公正世界信念(「他者は他者に値するものを得ている」)の高さと関わることが明らかになった。これらの結果は、畏敬が自己にかかるスキーマを手放すとする知見(Takano & Nomura, 2020)と一貫するとともに、世界観の変容に伴う人間行動の理解の仕方に対する畏敬の作用が、自己と他者で異なることを新たに発見した。これらの成果をまとめた論文を執筆し、現在国際学術誌に投稿中である。 また、畏敬の念とかかわりの深いスピリチュアリティについて、祖霊崇拝と自然崇拝の共通性と相違に着目し、権威主義との関わりを検討した。 結果、祖霊崇拝は権威主義の服従的側面(確立された権威に従い、忠誠心を持つ側面)と正に、自然崇拝は因習主義的側面(伝統や格式を重んじるために、対立価値観を否定する側面)と負に関連することが、相関・実験研究によって新たに明らかになった。これらの成果をまとめた論文についても現在国際学術誌に投稿中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、畏敬の念が自己・他者の行動理解にそれぞれ異なる形で影響を及ぼすことを新たに発見した。このように現在進行中の研究データを蓄積し、学術誌に論文を投稿するとともに、これまでの研究で得られた、畏敬の念がラバーハンド錯覚を高めることを報告した論文を執筆し、原著論文としてCognition and Emotion誌に投稿・受理された。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記の通り新たに明らかにした畏敬の側面について、畏敬を感じている際の生理反応(アイトラッカーによる瞳孔径の計測等)の時系列データを取得し、主観報告(自由記述を含む)との関連を検討する。また、実際に畏敬を感じる場所でのフィールドワークも実施し、畏敬の心理メカニズムのより包括的な理解を目指す。
|