2019 Fiscal Year Annual Research Report
DNA反応拡散系による階層的なパターンの形成と制御および形態形成への発展
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19J20990
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
安部 桂太 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | DNAナノエンジニアリング / 分子ロボティクス / DNAコンピューティング / パターン形成 / ハイドロゲル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はDNAの相互作用により反応拡散系を構築し,階層的なパターン形成を実現させること,そして形成させたDNAの濃度勾配パターンを形態形成に発展させ,パターン形状に応じたハイドロゲルを構築することで自己組織化による人工物の作製方法を確立することを目的としている.申請時の計画では,本年度は階層的なパターン形成に必要なDNA反応系の設計と拡散係数の選択的制御の実装を予定していた. DNA反応系の設計については,当初はXORゲート等の新たなDNA論理回路を設計する予定であったが,より速度定数の大きなハイブリダイゼーションによる重合を利用したアプローチに転換した.二本のDNA鎖(G, R)が一組となり,互い違いにハイブリダイゼーションを起こすことで重合体を形成する.重合が進むほど分子量が大きくなり,それに伴って拡散係数は小さくなる.さらに,大きな分子ほど拡散が遅くなる点に注目し,DNAの分子サイズを調節するAdjusterを導入することで拡散係数の選択的制御を実現した.この手法により実験コストを削減し,手順も単純化することができた. 次の段階として二本の線を同時に形成するシステムの実現に取り組んだ.このためにDNAの塩基配列特異的なふるまいを踏まえ,正規直交配列を活用して反応を並列化した.ここで,我々は新たな蛍光フィルターキューブと蛍光修飾DNAを導入することで,4チャンネル同時の蛍光観察を可能にし,これまでの2チャンネル同時蛍光観察では困難であった並列して動作するDNA反応系の観察に成功した. さらに,並行して形成される二本の線を基に第三の線を形成させることで,パターン形成のカスケードを実現した.実験において三本の線が形成される様子を観察することに成功している.解析結果でも3本の独立した線が形成されていることが確かめられたことから,現在ここまでの成果を報告する論文を執筆中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時計画していた予定より達成目標を早く達成しているためである.先の実績報告に記したように,本年度の目標は階層的なパターン形成に必要なDNA反応系の設計と拡散係数の選択的制御の実装であった. DNA反応系の設計については,当初はXORゲート等の新たなDNA論理回路を設計する予定であったが,想定していた鎖置換反応は速度定数が小さい.これまでも二等分線が現れるパターン形成に鎖置換反応を含むDNA論理回路を利用していたが,使用する反応の速度定数が小さいために形成される線がぼやけてしまうという結果が得られており,より速度定数の大きなハイブリダイゼーションによる重合を利用したアプローチに転換することで実現した.さらに開発した反応系をハイドロゲル中へ導入することで,二つの領域の二等分線を形成する反応拡散系を構築した.形成された二等分線の輝度を解析すると,その半値幅は325 μmであった.これまでの鎖置換反応を利用したDNA論理回路によるパターン形成と比較すると,細かな条件は異なるが1 mmの間隔に対しておおよそ半値幅500 μm程度であったことから,より鋭いパターン形成が可能になったといえる. 拡散係数の選択的な制御に関しては分子サイズが大きいほど拡散が小さくなることに注目し,Adjusterを開発することで達成した.これまで拡散係数の制御に活用していたDiffusion modulationという手法と比較すると,ハイドロゲル全体にDNAを分布させる必要がないという点が特徴であり,実験コストを削減し,手順も単純化することができた. さらに,予定に先んじて,パターン形成の並列化の実現とカスケードの構築に取り組むことができており,システムの有効性を示す結果も得られている. よって,予定していた目標を達成し,予定に先んじて研究を進めることができていることから,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はモデルの構築だけでなく,ツールの変更,あるいは作製も視野に入れながら新たな反応拡散系をシミュレーションする方法について検討する.設計したDNA相互作用を反応拡散方程式によって記述し,実験で観察したパターン形成が再現されることを確かめる.また拡散係数,速度定数などの変数のパターンへの影響を調査し,形成させるパターンの制御可能性について検討する. さらに,次の段階である形態形成するシステムへ向けて,DNAの局在パターンを応用した局所的なゲル化・溶解を起こす方法について検討する.このために,まずDNAによるゲル化・溶解するシステムについて先行研究を基に分析し,DNA反応系を設計する.ゲル化・溶解にはハイドロゲルの骨格を構成する高分子のネットワーク構造の構築,あるいは分解が必要である.そのためのDNA反応系を設計しその性能を評価する.具体的には,DNAを骨格とするハイドロゲルの応用する,あるいは別のハイドロゲル骨格に対してDNAを架橋に使用する等の方法を検討する. これまで実証したパターン形成実験に比べ,ゲル化・溶解にはより高濃度でDNAを扱う必要があることが予想される.よって,溶液中で新たにDNAを作るDNA酵素反応系やDNA大量合成サービス等の新たなツール・サービスを活用することを視野に入れながら実験を進める.こうした新たなツールを円滑にシステムに組み込むため,技術習得や設備の拡張を行う.また国内外の学会へ参加し,高分子化学やDNAハイドロゲルの専門家と議論することを通して,ハイドロゲルのゲル化・溶解とパターン形成が協調するシステムの構成を目指す.
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Research Products
(6 results)